新生TWPの作品に触れる前に是非とも聴いておいて欲しいCINERAMAの作品、というテーマからするとこのサイト上でも書いている通りでTWP名義の新作と直接的な繋がりがあるSteve Fiskプロデュース作"Don't Touch That Dial"から遡ってシングル集『CINERAMA HOLIDAY』や3作目のスタジオ・アルバム『TORINO』の3枚を聴いて頂くのが一番手っ取り早いのですけど、もうちょっと絞り込んで聴いてみたいという方の為に、私が考える現時点での代表曲を時系列に10曲ピックアップしてみました。David Gedgeの作詞家としての独壇場と言える‘Sex & Relationship’がテーマの楽曲の中でも特に秀でた作品、Gedge/Cleaveコンビならではの独特な憂いと陰のあるメロディー・ラインの個性が現れているもの、CINERAMAから新生TWPへと繋がるようなギター・バンド・スタイルのものまで、バランスよくそれぞれの時代からチョイスしています。CINERAMAスタート当初からのファンの皆様には異論は多々ある所かもしれませんが、これからCINERAMAを聴く際の何らかの参考になれば幸いです。[YOSHI@TWP-CINERAMA / last modified:1st December, 2007] |
1. Honey Rider [1998年/アルバム『VA VA VOOM』収録] |
| David GegdeがTWPの活動休止後初めてソロで公に出た際(1997年12月、BBC London = GLRのSean Hughesのプログラム)に歌われた2曲のうちの1曲がこの曲で、要するにソロの構想が浮かんでから最も早い段階で作られていた曲だと思うんですが、ここで既にCINERAMA作品の本質にあるマイナーコードでフックのあるメロディーの特徴が表れている、そんな感じがします。David 曰くの初期“ワイド・スクリーン・ポップス”期のCINERAMAの楽曲の中では珍しく後年のライヴでも頻繁に取り上げられていたもので、4ピースバンド編成にも良く映える名曲。個人的には『Live in Los Angeles』収録のライヴ・テイクはカリ・パーヴォラのゴキゲンとしか言いようがないドラミングも相まって、この楽曲のポテンシャルが最大限に引き出されたベスト・テイクだと思っています。ちなみにその2曲のうちのもう1曲がやはり『VA VA VOOM』に収録される事になる"Hard, Fast & Beautiful"。このトーチソング的な哀感漂うメロディは見事にDavid個人のユーロビジョンもの好きの趣味が表れたもので、これもまた1997年以前のTWPではやりたくても出来なかった作風ではあるのですが、トライしてはみたもののさすがにこの方向性は異色過ぎたのか、結局この1曲のみとなっていますが、この曲のウェットな質感をエッセンスとして上手く取り込んでいったのが『DISCO VOLANTE』以降のCINERAMAであったと解釈できるかと思います。 |
2. Dance, Girl, Dance [1998年/アルバム『VA VA VOOM』&シングル"Dance, Girl, Dance"収録] |
| デビュー曲"Kerry Kerry"を初めて聴いた時にも相当驚きましたが、『VA VA VOOM』に入っていたこの曲にはさらに驚かされたものです。今聴くとCINERAMAの数ある楽曲中でも実に異色な明るいメロディが爽快なポップ・ソング。それにしても恋人との幸せな日々を歌っていると見せかけて実は横恋慕に満ちた妄想だったというどんでん返しがあるストーリーはちょっと一筋縄ではいかない、嫉妬したくなるくらいの巧さがあります。TWP的なアプローチから意図的に離れようとしたソロ・プロジェクトだった初期CINERAMAでその試みが最も成功している1曲、と呼べるかもしれません。 |
3. Manhattan [2000年/シングル「Manhattan」&編集盤『THIS IS CINERAMA』収録] |
| 現在まで続く自主レーベルScopitonesの設立後第一弾リリースとなった1曲で、Simon Cleaveとのソングライティング・チームがここから正式にスタートしている訳ですが、ある種“ワイド・スクリーン・ポップス”期の集大成と呼べる様なサウンド・プロダクツがある一方、次作『DISCO VOLANTE』で顕著になる暗くて憂いのある、でもどこかクセになるメロディーラインが秀逸。ちなみにこの曲が発売されたのは2000年のヴァレンタインズ・デーで、新生TWP名義のアルバム『Take Fountain』のリリースは2005年のやはりヴァレンタインズ・デー。両カタログ共に1つの大きな区切りとなるものだけに、何だか運命的なものを感じざるをえません。 |
4. Lollobrigida [2000年/シングル「Lollobrigida」&アルバム『DISCO VOLANTE』収録] |
| もしCINERAMAで1曲だけ代表曲を挙げろ、と問われれば間違いなく私はこれを筆頭に挙げます。散文詩のスタイルで綴られるエロティックな歌詞がノンエフェクトの乾いたヴォーカルで歌われ、1番のブレイク後に入ってくるメランコリックなアコーディオンの音色が隠微な雰囲気を盛り立てていて、アレンジも含め終盤まで一切の過不足がない完璧な1曲。サウンド面でも詞作面でもDavid Gedgeが初期のCINERAMAともそれ以前のTWPとも全く異なる新しいステージに踏み込んだ、文字通りの新境地となった大名曲だと思います。このシングルにはカップリングに"Sly Curl"というこれまた屈指の名曲が入っていて、アルバムから漏れたこの曲が入っているのも編集盤『CINERAMA HOLIDAY』をCINERAMA入門の1作として強くオススメしている理由です。 |
5. Apres Ski [2000年/アルバム『DISCO VOLANTE』収録] |
| アルバム『DISCO VOLANTE』の中でも特に秀でた1曲として挙げたいのがDavid Gedge版ソープ・オペラ、と呼べそうなストーリーのあるこの"Apres Ski"。イタリア映画の『青い経験』とかを思い出しそうな70年代の大人の色香漂う青春映画の世界観。エロスという意味ではこの曲の前に位置する"Unzip"もお奨めしたい所です。『DISCO VOLANTE』はオーケストレーションやクラシックな楽器(前出の"Lollobrigida"におけるアコーディオンなど)のアレンジ力でDavid Gedgeが飛躍的な成長を見せたアルバムでしたが、ここでもトランペットの物悲しげなトーンが全体のムードを決定づけています。 |
6. Starry Eyed [2001年/シングル「Superman」カップリング&アルバム『TORINO』収録] |
| アルバム『DISCO VOLANTE』から実に4枚目のシングルカットとなった"Superman"のカップリングとして登場したこの曲が、今考えればCINERAMAの新たな契機だったのかもしれません。何しろ新生TWPの核となる4人が揃って初めて世に出た新録曲がこれです。結果的に既発のA面曲を凌ぐ人気を得て、発売直後からライヴでもクライマックスを作る定番になっていき、結局は大傑作3rd『TORINO』を構成する1曲にもなります。Steve Albiniがベーシック録音、Dare Masonがヴォーカル、オーヴァーダビングとミックスダウンを担当するという体制は『DISCO VOLANTE』から続いているものの、この曲あたりからそのバランスがややAlbini寄りになってきた感じが何となくしますね。またCINERAMAがTWP時代のレパートリーをステージ上で解禁したのがこのシングルリリース後のツアーからの話。それもこれも『DISCO VOLANTE』後のツアーから参加したKari Paavolaという強力なドラマー無くしては実現出来なかった事だと思います。TWPというバンドはギターと曲以上にドラムが(つまりはその大半の曲で叩いていたSimon Smithのプレイが)非常に重要な鍵を握っていたバンドでしたから。 |
7. And When She Was Bad [2002年/アルバム『TORINO』収録] |
| アルバム『TORINO』のオープニングを飾っていたこの1曲はAlbini-Mason体制で作り上げた楽曲群の中でも1つの完成型を示したものとして記憶に留めたいものです。上記したバランスという意味では『DISCO VOLANTE』ではまだ綺麗にまとまり過ぎた感じもあったオーケストラルな要素に重点を置いていたのが、ここではより切れ味を増したギター・バンドのサウンドをメインに据えながらも、そこに真っ正面からぶつかってもビクともしない様な“ドライヴィング・ストリングス”と呼びたい荒々しさがDavid Gedgeのアレンジメントによって加えられています。アルバムトータルで緩急付けた構成の妙が光る『TORINO』という傑作の中でも、1曲の中でこれだけの静と動のコントラストをもたらしたその鮮やかな手腕に改めて脱帽します。 |
8. Careless [2002年/アルバム『TORINO』&シングル「Careless」収録] |
| しかしそんな『TORINO』をむしろ印象強いものにしていたのは間に挟み込まれたこういうストレートなギター・ロック・チューンでもありました。最初John Peel Showでのセッションで披露した際には後々ストリングスが入るだろう事を見越したキーボードのアレンジが目立っていましたが、ふたを開けてみたらストリングス・レスの実にTWP的、特に『THE HIT PARADE』期のTWP的な特色のあるギター・ロックに仕上がった訳で、これに頬が緩まない訳には(笑)。"Wow"や"Quick, Before It Melts"などいくつかあるCINERAMAモードのギター・ロック・チューンの中でも完成度の高さという面では抜きん出た存在です。 |
9. Don't Touch That Dial [2003年/シングル「Don't Touch That Dial」収録] |
| Albini-Mason体制で制作された2作のアルバム、その後のSallyが退いて4ピース編成での度重なるツアーに鍛え上げられたロック・バンドとしての成長、さらにDavidにとってはCINERAMA開始当初のパートナーであったSally Murrellとの破局、という(またもや)大きな転換期を経て、米シアトルのSteve Fiskの元を訪ねる訳ですが、Steve Fiskと言えば言うまでもない、TWP史上最も物議を醸した1994年の『Watusi』を手がけた人物。で、『Watusi』と言えばかつてDavidが“CINERAMA発祥の地”と呼んだポップなアプローチを選び取った事で古くからのファンの一部には「失速した」だの「らしくない」だのと呼ばれてしまう継子の様な存在。ここまでの流れで行けばこの再タッグはまたもや良くも悪くも新たなターニング・ポイントになろう事は予想できました。そんな不安と期待が入り交じる中で到着した本シングルは以前のシングル"Health & Efficiency"の様なドラマティックな大曲、かつサウンド的にもやはりここまで発表してきたものを総まとめした様なギター・ロックmeetsドライヴィング・ストリングス・サウンド。しかし、総体的にはそれまでのCINERAMAの作品に無かった新たな世界を切り開いた様な、決定的なエポックとなりました。Steve AlbiniとDare Masonという性格の異なる両エンジニアの手腕を融合させたハイブリット・プロジェクトは確かに他に類を見ない独特なサウンドで統一された全体性を獲得する事にはなりましたが、やはりそれはSteve Albiniが指摘した「折衷的な」結果でもあったのは事実で、ここで両者の特性を併せ持つ…ノイジーなインディ・ギター・サウンドもキーボード奏者である自らの出自を活かした伝統的なアプローチも得意とするSteve Fiskという一人のプロデューサー/エンジニアに制作を任せたのは大正解で、やはりサウンド面でのバランスではそれまで以上に統制の取れたものになっています(これは新生TWPでの"Interstate 5"を聴いても明らかですね)。Davidの確信通り、ここからCINERAMAの4人にとっての新たなフェイズが始まった訳で、セールス的にTWP休止後最初のリリースだった"Kerry Kerry"に次ぐセールス(とは言え、それは微々たるものですが)を記録したというのも頷けますし、CINERAMA名義で活動した6年間の‘エンドロール’に用意されていたのがこの曲だったというのも納得。またこれが来るDavidたちのニューフェイズである新生TWP名義の新作『Take Fountain』に改めて収録されるというのは、当然納得行くものです。 |
10. Always the Quiet One [2004年1月6日 BBC Radio 1 "John Peel Show"で放送/アルバム『John Peel Sessions : Season 3』収録] |
| 上記のシングル以降は7インチの限定盤でシングルが出ていますが、それはあくまで2002年のツアー中に録られたものだったので、CINERAMAの新しい録音としては2004年1月6日のBBC Radio 1 "John Peel Show"でオンエアされたセッションのみとなりますが、これがもう筆舌に尽くしがたいもので。この曲が最初に流れたものだった訳ですが、もう狂喜乱舞もの。ワクワクする様な高揚感と共に一気に駆け抜ける素晴らしいギターロック・トラックで、「これ、もうThe Wedding Presentでいいじゃん」と快哉を叫びましたよ、思わず(笑)。このセッションでは他に『Seamonsters』期のTWPを思い出すスリリングなアレンジが施されたカヴァー曲"Groovejet"など、どれも同年のCINERAMAから改名した新生TWPへの大きなミッシング・リンクと呼べるもので、実際この時の担当エンジニアが「何だかWeddoesっぽいサウンドになったよね」と発言した事が改名へと至る一つのきっかけというか、後押しする様な自信になったという逸話もあり、ぜひとも『John Peel Sessions : Season 3』でお聞き頂きたいものです。なおこの曲もやはり新生TWP名義の新作『Take Fountain』に登場します。 |
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