THE WEDDING PRESENT
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TAKE FOUNTAIN

Scopitones
TONE CD 020

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TAKE FOUNTAIN

FORMAT: STUDIO ALBUM
RELEASE DATE (U.K.): 14th February, 2005
LABEL / CATALOGUE No:
Scopitones (U.K. ) CD / TONE CD 020
Scopitones (U.K. ) 2LP / TONE 020 ; released on 18th April, 2015 1,000copies limited
Manifesto (U.S.&Canada) / MFO-43901 ; released on 15th February, 2005
Stickman Records (Germany) / Psychobabble 047 ; released on 14th February, 2005
Talitres (France) / Tal-019 ; released on 15th February, 2005
Houston Party Records (Spain)/ released on 1st March, 2005


TRACK LISTING:
    (Original U.K. Scopitones' edition)
  1. On Ramp
  2. Interstate 5 [Extended Version]
  3. Always The Quiet One
  4. I'm From Further North Than You
  5. Mars Sparkles Down On Me
  6. Ringway To SeaTac
  7. Don't Touch That Dial [Pacific Northwest Version]
  8. It's For You
  9. Larry's
  10. Queen Anne
  11. Perfect Blue
PERSONNEL:
David Gedge : Singing, Guitar and Percusion
Simon Cleave : Guitar
Terry de Castro : Bass and Backing Vocals
Kari Paavola : Drums and Percussion

with the assistance of : Steve Fisk (Vibraphone, Glockenspiel, Mellotron, Organ and Piano), Jen Kozel (Violin), Stephen Cresswell (Viola), Lori Goldston (Cello), Don Crevie (Fench Horn), Jeff McGrath (Trumpet)

All the songs were written by David Gedge & Simon Cleave. Produced engeneered and mixed by Steve Fisk. Additional production by David Gedge & Simon Cleave. Orchestral Arrangements by David Gedge. Dedicated to the memory of John Peel.
【DAVID GEDGE発言】
『CINERAMAというのは僕にとっては何か別次元の事だったんだ。僕と僕のガールフレンド、Sally Murrellのものでね。それがギグをやり始めてから二人のユニットだったCINERAMAが特定のグループになって何年かを過ごす事になった。さらには、最近はCINERAMAではやってこなかった様なもっともっとロックっぽい音になって。で、彼女も離れて、ごく自然にTWPになるのが当たり前に思えてきてね。』(デイヴィッド・ゲッジ談 / 2004年11月foutraque.com、新生TWP正式始動後初インタビューで)
『3rdアルバムの『Torino』の後にSally Murrellが離れて、代わりを入れずにずっと(かつてのTWPと同じ楽器編成の)4人でライヴをやってきたし、それにここ数年当たり前の様にTWPの曲もステージでやってきたから、だんだんと作る曲もサウンドがTWPっぽくなってきた。だからギターバンドに戻って“じゃあそれはTHE WEDDING PRESENTって呼ぶしかないようだね”となった訳。CINERAMA最後のJohn Peel Sessionでもエンジニアが“こりゃあもうThe Wedding Presentじゃないか!”って言ってたくらいだから(笑)。確かにアルバムには明らかにCINERAMA的なサウンドの要素が入ってるけど、何せ僕らはそれを8年間もやってきたんだからね。今はまるで2つのバンドが合併した様な感じだね。』(デイヴィッド・ゲッジ談 / 2005年2月ready steady jedi.com)

◎ 作品の背景
新生TWP初のアルバムは2005年2月14日にリリース。奇しくも2/14は自主レーベルScopitones初のカタログであったCINERAMAのシングル"Manhattan"がリリースされた日でもあり、そこから数えてちょうど5年、同レーベル20作品目のカタログとなった。さらにはデイヴィッド・ゲッジにとってはTWPの結成/デビューちょうど20周年となる大きな節目に発表された作品でもある。TWP名義では1996年9月発表の『Saturnalia』以来となる8年5ヶ月ぶり通算7作目のアルバム。当初本作はCINERAMAの4作目と目されていた訳だが、CINERAMAとして完成させたアルバムをTWP名義で発表した訳ではない。2004年4月に行われたシアトルでのアルバムの為の最初のレコーディング前に行われたディスカッションの末、TWPとしてのアルバムを制作する事に決定した、というのが真相。しかし『Torino』時のCINERAMAからSally Murrellを除いた同一メンバーで制作されており、収録曲のほぼ全てがCINERAMAの新曲として既にライヴやレディオ・セッションで披露され慣れ親しまれてきたものである事から考え合わせると、1997年からペンディングしていたキャリアの続きというよりは、冒頭で引用したデイヴィッド・ゲッジの発言でもお分かりの通り、やはりCINERAMAがTWPのレパートリーをステージで解禁したライヴ・サーキットの日々の中でTWPの楽曲に触発される様に根本的な変化を遂げたこの数年、つまりは2000年作『Disco Volante』後ドラマーがKari Paavolaに替わった時点から始まって3rdアルバム『Torino』を経て本アルバムと同じSteve Fiskがプロデュースしたシングル"Don't Touch That Dial"(タイトル曲は今回再録音テイクで収録)が生まれた実り多きこの4年あまりのバンドの集大成と捉えた方が自然であるし、TWP的なエッジとバンド・グルーヴ、CINERAMA的な洗練された演出が絶妙なバランスで融合している本作のサウンドにそれは端的に表されている。実際『Disco Volante』以降のバンドの発展ぶりを見守ってきたファンたちにとっては容易に想像ができた姿とも言え、仮にこれがCINERAMA名義で発表されたものだとしても素直に感動出来る作品なのだが(正直、現在のスタイルが完成された『Disco Volante』からの三部作の3作目と捉える事さえ可能だと考えている)、逆に今回の改名によりCINERAMAを全く別個のプロジェクトとして見向きさえしていなかったかつてのTWPのファンたちの中には大いに戸惑いを覚える向きも少なくないであろうアルバムだとも思う。
本作への理解を深めるためにはもしライヴを実際に見に行った事が無いのであれば、BBC Radio 1 "John Peel Show"におけるレディオ・セッションやMeida Valeでのスタジオ・ライヴを体験して頂きたい所なのだが現時点では音源化の予定がないので、まずは『Torino』はお聞き頂きたいし、また幸いな事に現在でもWEB上で聴くことができるCINERAMA時の北米ツアー中に行われたレディオ・セッションの中には現在に至るまでの変化の過程が垣間見える記録が少なくないので、お時間がある時にでも御一聴を。

◎ “最もパーソナルな内容”となったアルバム
今回デイヴィッド・ゲッジとギターリストのサイモン・クリーヴの2人がソングライティング・チームとしてタッグを組んで以降のアルバムでは初めて収録曲全曲がこのコンビによる楽曲で占められる事になったが、後述するようにオープニング・トラックの"On Ramp"を除く全曲が4ピース編成のCINERAMAでこの2年間に行われてきた度重なるツアー・サーキットやレディオ・セッションの場で度々披露され、磨き上げられてきたもので、楽曲の個性が際だっているのは精力的に活動を続けてきたロック・バンドとそのソングライター・チームとしての実力の賜物と言っていいだろうし、バラッド調のナンバーにおけるメロディーの美しさも含め、Gedge/Cleaveコンビ史上最上の部類に入る。
その楽曲を支えるのは、40代半ばを迎えたデイヴィッド・ゲッジを中心に彼のミュージシャン歴の中でも最も長い期間である4年間(意外に思われるだろうが、旧TWPでは同じラインナップで3年と持った試しがない)を共にした鉄壁のコンビネーションを誇るロック・コンボ。旧TWPからCINERAMAに途中合流したギターリスト/ソングライティング・パートナーであり、今やバンドの名参謀役として欠かせないメンバーとなった才人Simon Cleave、ベーシストとバック・コーラス担当のTerry de Castro(彼女は本作のバック・コーラスのアレンジも全て手がけている)、このアルバムを最後に袂を分かったドラマーのKari Paavola…このレギュラー・メンバーに加えプロデューサーのSteve Fiskは今回もプレイヤーとして様々なアイデアを提供し、キーボード類の絶妙なアシストで色を加えている。サウンド的には『Seamonsters』のムードを思い出す硬質な"Interstate 5"やあからさまに初期Weddoes風なタイトルのポップ・チューン"I'm From Further North Than You"、『The Hit Parade』のシングルにあったキャッチーさと独特なバンド・グルーヴと同時にCINERAMAの"Careless"の流れも汲んでいる"Always the Quiet One"、"Ringway to SeaTac"など、『Torino』に比べれば確かにかつてのTWP的、ギター・バンド的なサウンドを響かせる場面が増え、そこにCINERAMAからTWPへとフェイズを移行した意図を感じさせる。一方で強く印象に残るのはGedge/Cleaveコンビ作品最大の魅力である独自のメロディー感覚である。マイナー・コードで物憂げな、だが一度聴いたら忘れられないフックのあるメロディー・ラインに、さらに存在感の増したデイヴィッド・ゲッジのヴォーカル。これこそがCINERAMAイヤーズ最大の収穫であると思うし、無骨だがどこか暖かみを感じるこの歌はやはり掛け買いのない個性だと改めて認識させられた。
そして言うまでもなく重要な要素が、デイヴィッド・ゲッジ自ら本作を“シアトル賛歌”と言う通りシアトルに実在する地名や場所の名前が頻繁に登場し、“今まで作ったアルバムの中で最もパーソナルな内容になった”と語る私的な事象(Sally Murrellとの別れも影響した悲恋のストーリーが大半を占める)が盛り込まれた歌詞。"Don't Touch That Dial"や"Larry's"に顕著だが、いつになく胸を打つストレートな表現が目立つのはやはり自他共に認める「私小説的」「日記的」なストーリーだからこそで、オーケストレーションにせよバンドサウンドにせよ全ての要素がこの歌、メロディーと詞を最大限に活かすように過不足無いアレンジメントで配されているのが分かるし、作品全体を支配する力強くも切ないムードはやはりこのパーソナルな意味合いで書かれた、それ故にCINERAMAの頃にあった様なややストーリー構成や技巧に懲りすぎた部分もあったスタイルともまた異なり、簡潔に自身の想いを綴っていく様な歌詞がもたらしているものが大きいのではないだろうか。
特定の街で過ごした時間、特定の恋愛関係の中から生まれた詞が歌い込まれた作品、という事でどうしても思い出されてしまうアルバムが、TWPのデビュー・アルバムであり、親しみを込めて“マンチェスター・アルバム”と呼ばれる事もある『George Best』である。もちろん青春的な熱気と青臭さ、赤面したくなる様な拙さが感じられるデビュー作と本作を比べる事に無理があるのは承知しているが、本作との共通点やリンクする点は実はかなり多い。

◎ プロデューサーはスティーヴ・フィスク
録音とミックスダウンは2004年の4月から夏にかけて当時デイヴィッドが拠点としていた米シアトルと一部シカゴで行われ、シカゴではCINERAMA過去2作のベーシック録音を行ったSteve Albini所有のスタジオElectrical Audioでも行われたが、そのSteve AlbiniとDare Masonという性格の異なる両エンジニア/プロデューサーを起用したハイブリット・プロジェクトであったCINERAMAの近作と異なり、今回は録音・ミックス・プロデュース全てを1人のプロデューサー=Steve Fiskに任せた事でより整合性の高いサウンド・プロダクションに仕上げられた。11年前に関わった『Watusi』における"Spangle"や"Big Rat"に象徴される、それまでのTWPに無かったアレンジメントやバラエティー豊かな要素を持ち込んだその采配が当事者であるデイヴィッドには高く買われたものの、ファンやプレスからは不当なまでに酷評されたSteve Fiskに対しても今回は異議を唱える者は少ないだろう。もちろん『Watusi』に関してはバンド内が混沌としていた時代で作風としても新たな方向性を探り始めていた作品であった訳で、充実したバンドの好調期にあって制作当初から音楽的な着地点や落とし込み所が見えていた本作とは明らかな状況の違いが認められる以上、Steve Fisk1人を人身御供にする訳にはいかないが、あのアルバム以降のSteve自身の変遷を追ってみると本作の成り立ちに関してはその手腕もまた重要な鍵を握っていると思えて仕方がない。Boss HogやUnwound、Lowといった典型的なインディーズ仕事だけではなく、ファンキー・ロックのMaktubに日本のhal、そして自らプレイヤーとして発表した作品〜以前から参加しているインスト・ユニットPell Mell、ソロワーク、人気作「SEX and the CITY」をはじめとする数多くのTVドラマ音楽、映画のスコアまで、実に多岐に渡るジャンルやスタイルの作品を手がける中で、現代でも数少ない信頼を置ける経験豊富なエンジニア/プロデューサーの1人となり、TWP的なインディー・ギター・ロックにもCINERAMA的なオーケストラル・フィルミック・ポップ・サウンドを作る術にも精通する彼こそが本作のプロデューサーに最適だったのではないか、と。たまたまデイヴィッドの制作当時の拠点がSteveの地元であるシアトルにあったという‘地の利’が手伝ったとはいえ、本当に最高のタイミングでの再タッグだったと思う。

◎ 『Watusi』での低迷から10年目に辿り着いた傑作
そう、全てはデイヴィッド・ゲッジが“CINERAMA発祥の地”と呼んだあの『Watusi』が始まりだった。この作品発表からの10年は彼にとっては数多くの変化が訪れた時代だった。度重なるレーベル移籍、メンバーチェンジを乗り越えて新たな方向性を模索した後期TWPの諸作(『Mini』『Saturnalia』)、バンド結成13年目にして始動した初のソロ・プロジェクトCineramaで己のジョン・バリー、エンニオ・モリコーネの映画音楽や60年代のTVサントラ、ユーロヴィジョンもののポップスへの愛を形にすべくTWP的なスタイルから離れたポップ・ミュージックを制作(『Va Va Voom』)、10年ぶりとなる自主レーベルScopitonesの設立、固定メンバー5人で到達した“新たなロック・バンド”CINERAMAとしての境地とSteve Albiniの協力を得た制作体制の確立、アレンジャーとしての完成度の高いスキルと同時に圧倒的な独自性も獲得した名作2nd(『Disco Volante』)、改めて全盛時のTWP作品と真正面から対峙したリマスター・ワーク(『Bizarro』『Seamonsters』『The Hit Parade』)、その過程で過去の楽曲の魅力を再認識し、新たな段階としてTWP時代のレパートリーも解禁したライヴ・サーキット、その日々で培われた“ギターバンド”CINERAMAのダイナミズムをうまく結実させた3作目(『Torino』)、CINERAMA開始当初の一翼を担っていたSally Murrell離脱後の4ピース編成での度重なるツアー、シアトルでSteve Fiskと共に臨んだレコーディングから生まれた名シングル("Don't Touche That Dial")、そしてCINERAMAからTWPへの改名…。『Take Fountain』に宿る地に足の着いた剛胆さと音楽的な訴求力の高さの所以は『Watusi』以降の、商業的には思うように報われなかったのかもしれないが、その着実な歩みの中で得られた音楽的な成果と経験を何一つ蔑ろにする事無く全てを集約しながらも、現役のロック・バンドの作品としての現在進行形のサウンドを明確に顕しているからに他ならない。キャリアも20年を迎え、普通なら過去の音楽的な遺産だけで食べて行けるグループなのかもしれないのに(実際、80'sポスト・ロック/ニュー・ウェイヴ・リバイバルのブームに乗じて再結成した多くのバンドがそうだと言える)、勇猛果敢に新たな作品を作り続け、自己の表現領域を更新し続けているデイヴィッド・ゲッジとそのバンドの姿勢…デビュー以来一貫して変わる事のないその姿勢を今作にも感じ取る事ができるはずだ。音楽そのものの強さと同等に、その在り方にも私は心底感動を覚える。

なお本作を従えたユーロピアン・ツアーからドラマーが本作のKari PaavolaからJohn Maidenに交代。サイモン・クリーヴの決めたセットリストにより旧TWPでも長らく演奏されていなかった"Once More"や"Anyone Can Make a Mistake"、96年のツアー以来となる"My Favorite Dress"といった初期レパートリーも登場し、連日SOLD OUTの大盛況を迎えた。にも関わらず、アルバム自体は全英アルバムズ・チャートでは最高位68位と思ったほどのランキングに結びつかなかったのは残念だった。

◎ アルバム・タイトルに隠された意味
アルバム・タイトルは往年の名女優ベティ・デイヴィスにまつわる有名な逸話が関係している。彼女があるインタビューにおいて
「若い女優たちに、ハリウッドに行くために何かアドバイスはありますか?」と訊かれ、Hollywoodを映画業界と取らずに街の名前として捉えてこういうジョークで返したという。
「ファウンテン通りに行けばいいんじゃない?(Take Fountain)」

ベティ・デイヴィスが発したこのフレーズは何の気もなく口から出た冗談であるようで、そんな簡単な近道なんてある訳ないのよ、という主張も隠されている。 つまり“ローマは一日にして成らず”という事である。
そう捉えると、長く複雑な道のりを経てこの傑作に辿り着いたデイヴィッド・ゲッジの心情と自信をも代弁しているタイトルでもある、そんな気がするのだ。
ちなみに、ベティ・デイヴィスの代表作『イヴの総て』の原題は"All About Eve"。偶然にもTWPデビュー作『George Best』収録曲と同名。これも本作と『George Best』が奇妙にリンクしている点の1つでもある。

◎ 注意が必要な各国盤の違い
母国U.K.盤の発売日から1日遅れで発売され、日本の店頭でも入手しやすいManifestoレコーズ製のU.S.盤はエンハンストCD仕様でシングル曲"Interstate 5"、"I'm from Further North Than You"のプロモーション・ヴィデオが観られるが、残念ながら冒頭のインスト"On Ramp"がオミットされている。そのためその"On Ramp"と継ぎ目無しにつながっているExtended Versionの"Interstate 5"のイントロの編集処理が英国盤と異なり、ギターのみで始まるシングル・ヴァージョンのイントロが流用されている。よって同じ「Extended Version」という名称ながら実際には2つのヴァージョンが存在する事になる。この他にもU.S.盤には編集上、もしくはマスタリング工程での不手際としか思えない差異がいくつかある。特に"Interstate 5"と"Always the Quiet One"、"Don't Touch That Dial"と"It's For You"のようにオリジナルではシームレスに間髪入れず始まっていたものがわざわざ曲間が開けられているのは本当に解せないし(故に"Always the Quiet One"冒頭のノイズの消し忘れは興が削がれることこの上ない。"Interstate 5"を綺麗にカットアウトさせ、ブランクを設けたのであれば、この箇所は修正されるべきであった。)、アルバムの流れを台無しにしていると思う。CINERAMAとしての『Disco Volante』や『Torino』はもちろん旧TWPでも『Saturnalia』や『Seamonsters』など過去の作品にも明らかなように、曲間や全体の流れにも並々ならぬ拘りを見せているのは周知の通りで、ここはぜひともオリジナルの英国盤でお聴き頂きたい。

なお英国盤と同じ仕様でフランス、ギリシャ、スペイン、ポルトガルを除くEU諸国とイスラエル、オーストラリア、スカンジナヴィアではドイツ・ハンブルグのStickman Recordsから英国盤と同じ2/14に、フランス、ギリシャ、南アフリカ、台湾と韓国ではフランスのTalitresから2/15に、スペインとポルトガルではHouston Party Recordsから3/1にと、世界的な規模でのリリースが展開されたが、日本盤発売のオファーは一切無かったというから呆れるばかりだ。

最後に、本作はTWPの再始動を見届ける様に、2004年10月に他界した古くからの友人でもあったDJ、John Peelに捧げられている事を付け加えておく。

【曲目解説】
1. On Ramp
"Interstate 5"の序曲的なワンノートのインストゥルメンタル。この2分ほどの小品をManifestoのディレクターはお気に召さなかったとの事でU.S.盤ではカットされ、その都合上次曲の"Interstate 5"のイントロまで編集されてしまった。この措置は作品のオリジナル性を損なうという意味でも恥ずべき行為だと思う。これでアルバムが始まるのと始まらないのとでは大きく印象が変わってくるからだ。個人的には静かにゆっくりと夜が明けていくようなこのイントロダクションは効果的だと思う。ちなみにタイトルの「On Ramp」とは高速道路の出入り口のランプのこと(対語的に"Off Ramp"とも表記できる。イギリス英語では"sliproad"という。)。そう、入り口から高速へと合流する緩やかなスロープを登ってInterstate 5へと車が入っていくような、このオープニング・トラックはそんなイメージも想起させる。この語義通りの意味で考えると、U.S.盤はいきなり入り口が絶たれているという事にもなる。

2. Interstate 5 [Extended Version]
その"On Ramp"のインストにオーヴァーラップして(U.S.盤ではこの編集処理が異なり、シングル・ヴァージョンのイントロが流用されている)いよいよ傑作『Take Fountain』の本編が始まる。“シアトル・アルバム”の異名を取る本作の口火を切るのはまさにシアトルを通る5号線に乗って南下を始める(ストーリーとしては実際には異なるが)ドライヴィング・チューン。最初にシングルとして発売されたトラックがこれでその選択眼に疑問が残ったが、このアルバム全体の硬質なトーンを決定づけるには十分な1曲になっているように思う。シングルより2分ほど長めで、エンディングに実にCINERAMAティックな、具体的には『Disco Volante』に顕著な、エンニオ・モリコーネ・スタイルのトゥワンギー・ギターとメロトロン音色のキーボードが特徴的なインストパートが加えられた。本作ではインタールードの様にエンディングにこういう物悲しげで映画音楽的なインストパートが加えられたものが3曲ある。

3. Always the Quiet One
TWPへの改名を決意する大きな自信になったCINERAMA最後のJohn Peel Session(2004年1月放送)で披露され、ライヴのレパートリーとしてもおなじみとなったアッパー・チューン。シングル向きのキャッチーさがあって、次の"I'm from Further North Than You"と共に畳みかけるような小気味いい流れを作りだしている。先のPeel Sessionやライヴの時よりややテンポが遅くなっているが、レコーディングに際しこのテンポにするかどうかで相当悩んだとはTerryの弁。アルバム内のポジション的にはこのテンポは有効だとは思うが、先のPeel Sessionのヴァージョンを知る者としてはやや物足りなさも感じる。歌詞はと言えば『George Best』収録曲の"A Million Miles"に通じる恋に落ちた男の子のもどかしさと情けなさがよく表れた、いかにもデイヴィッドらしい作風だが、言葉のメロディーへの乗せ方やライミングには隔世の感あり。

4. I'm from Further North Than You
アルバムの発売に2週間先駆けて本作からの先行シングルとなった。CINERAMA2003年4月のU.K.ツアーで初披露されて以来もう2年近く"Edinburgh"のタイトルで親しまれていた名曲で、ライヴでも欠かされた事が無かった。典型的な初期Weddoesっぽいタイトル、かつギター・ロック・スタイルだが、実はギターリスト/ソングライティング・パートナーのサイモン・クリーヴがリハーサル時やライヴのサウンド・チェック時に弾いていたギター・リフを元にデイヴィッド・ゲッジがアイデアを膨らませて出来上がったものだという。前の曲もそうだが、本作ではリフ・メーカーとしてのSimon Cleaveの成長ぶりを堪能できる曲が数多くある。PVはその元タイトルの英Edinburghで撮影されている。なおCINERAMA時に行われたシアトルのFM局KEXPでのレディオ・セッションで"Edinburgh"のシンプルなアクースティック・ヴァージョンが聴ける。

5. Mars Sprkles Down on Me
"Always the Quiet One"同様、 2004年1月放送のCINERAMA名義最後のJohn Peel Sessionで披露されていた。最初のサビ明けで入ってくるストリングスが効果的で、美しいメロディーとロマンティックなコーラスに引き込まれるが、ここでは何と言ってもデイヴィッドの天才的なストーリー運びに注目したい。「Mars Sprkles Down on Me」(“あの煌めきは突然僕の上で消え失せてしまった”)というロマンティックなフレーズがこのメロディーを呼び込んだのじゃないだろうか?一瞬そう思わせておいてストーリーそれ自体を追っていくと浮かび上がるのはいかにもデイヴィッド節の嫉妬心丸出しで独特なユーモアを感じさせる心象描写。余談だが、ここでセロを弾いている Lori Goldstonはかつて(本作のプロデューサーであるSteve Fiskがプロデュースした事もある)Nirvanaの『MTV Unplugged In New York』のセッションでも弾いていたミュージシャンとのこと。もしかしたらSteveのシアトル人脈からの起用かもしれない。

6. Ringway to SeaTac
CINERAMA 2004年4月の欧州ツアーからセットリストに入ったライヴ映えするアップテンポな1曲。同10月に放送されたTWP最後のJohn Peel Sessionでも披露された。“シアトル・アルバム”の異名を取る本作はシングルの"Interstate 5"をはじめ、シアトルに関する名称がタイトルや歌詞中に数多く登場する(故に歌詞の面においては青春時代を過ごしたマンチェスターからの影響が色濃かったTWPのデビュー・アルバム『George Best』との相似点がかなりある)。このタイトル'Ringway'は英マンチェスターの空港の名前、'SeaTac'は米シアトルの空港の名前。イギリスから海を越えてシアトルへ渡った当時のデイヴィッドの立場を表した様なタイトル。ここでも歌われるのはまたもや恋人との別れ。なお、2005年10月からの秋のツアーに合わせてシングル化も決定した

7. Don't Touch That Dial [Pacific Northwest Version]
CINERAMA名義の新録曲によるシングルとしては最後の作品となった1曲は今回再レコーディング・テイクで収録。プログラミングされたかのような異様にコンプレスのかかったキックとハイハットの音で始まり後半ストリングスも入って壮大なスケールで描かれていたシングル・ヴァージョンと異なり、ライヴっぽいアンビエンス(何となくElectrical Audio録音特有のあの感じだ)も特徴的な、デイヴィッドの言葉を借りればかなり“ロックっぽい”仕上がりになった。間違いなく本作のハイライトだろう。ここでもエンディングに不安げなムードを漂わせるCINERAMAティックなインストパートが加わっている。

8. It's For You
間髪入れずに(U.S.盤では不可解なブランクの後に)始まるのはこれもCINERAMA 2004年4月の欧州ツアーでセットに入っていたライヴ向きの1曲。Terry de Castroのベースを前面に打ち出して、本作中では珍しくヴォーカルを下に潜り込ませるようなミックスになっているが、こういう曲調は後期のCINERAMAはもちろん、1997年以前のTWPにも無かった作風でちょっと意表をつかれる。アルバムの流れの中で聴くのに良いアクセントになっている。"No"を思い出すシチュエーションの「罵り系」の歌詞が個人的に気に入っている。

9. Larry's
"I'm from Further North Than You"の原曲"Edinburgh"同様、CINERAMA2003年6月に放送されたJohn Peel Sessionで初披露。セッション・テイクでのアレンジはシンプルなロッカ・バラード調だったが、艶っぽいエレクトリック・ギターの伴奏で弾き語られるイントロから始まり、2番のサビからバンド編成になるここでの構成は歌詞の流れに則したものとは言え、お見事!としか言いようがない。ちなみに"Larry's"もシアトルに実在するスーパーマーケットの名前ながら、歌詞にある「you were near me for eighteen years of my life」や彼女無しに生きていく事から立ち直らなくては、という主人公の心情はどうしてたってSally Murrellとデイヴィッドの事を思い出させる。

10. Queen Anne
"Edinburgh"と同時期からライヴでは演奏されていた、わりと昔からライヴのレパートリーとしては知られていた1曲。2004年10月に放送されたTWP最後のJohn Peel Sessionでも披露された。後半の盛り上がりが素晴らしく、エンディングに向けたもう1つのクライマックスを作り出している。"Queen Anne"は夜景が名物のシアトルの観光地としてよく知られる街の名前で(ここの夜景の美しさがどんなものか知りたい方は日本時間の昼間にこちらのWEBカメラを御覧あれ)、Davidがアルバム制作時にアパートメントを借りて住んでいた街でもある。エンディングのCINERAMAティック・パートは"Interstate 5"のコーダで登場したインストゥルメンタルのヴァリエーション。ここでも哀感のあるトランペットの音色が印象的。このパートはエンニオ・モリコーネとクリント・イーストウッドが聴いたらきっとニンマリするに違いない。『続・夕陽のガンマン』ラストの決闘シーンのバックグラウンドに流れている曲に酷似しているからだ。

11. Perfect Blue
ラストを締めくくるのはCINERAMA 2003年10月のツアーからセットリストに加わった1曲。後期CINERAMA色の濃いバラッドで、シアトルのFMステーションKEXPでのレディオ・セッションをはじめ、アクースティック・セッションの際に頻繁に取り上げられていたものだったので、きっと近年の楽曲の中では特別な思い入れのある1曲なのだろう。オーケストレーションとギター・バンド・サウンドの融合はCINERAMA後期から頻繁に試みられてきたものだが、この曲1曲で全てを総括したかのような趣のある会心の1曲となった。恋人との別れに対する悔恨を残すような詞だが、何となく清々しい印象を湛えたストリングスを交えたシークエンスでこの傑作アルバムは幕を閉じる。
【歌詞・対訳】
全曲歌詞・対訳(別ウインドウで開きます)
【関連文章】
『Take Fountain』U.K.盤とU.S.盤の違いについて (当サイト2005/2/24付けニュース)
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