THE WEDDING PRESENT
studio albums >> | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 || single/EPs | comp. | sessions | live | dvds | TOP |
Going, Going...
Amazon.co.jp アソシエイト
2 Vinyl+7"+CD+DVD
Amazon.co.jp アソシエイト
CD+DVD
Going, Going...

FORMAT: LP
RELEASE DATE:
2nd September, 2016 (U.K./Europe),
November 8th, 2016 (U.S./Canada)
LABEL / CATALOGUE No:
Scopitones (U.K./Europe) - TONE 066 (2LP, 7"vinyl, CD+DVD)** / TONE BP 066 (2xCD+DVD)*, TONE CD 066 (CD+DVD)
Happy Happy Birthday To Me Records (U.S./Canada) - HHBTM 182 (2LP&DVD w/ download code)

Tracklisting:
  1. Kittery
  2. Greenland
  3. Marblehead
  4. Sprague
  5. Two Bridges
  6. Little Silver
  7. Bear
  8. Secretary
  9. Birdsnest
  10. Kill Devil Hills
  11. Bells
  12. Fifty-Six
  13. Fordland
  14. Emporia
  15. Broken Bow
  16. Lead
  17. Ten Sleep
  18. Wales
  19. Rachel
  20. Santa Monica
    *bonus disc for TONE BP 066 edition
  1. Bells (Piano Version)
  2. Broken Bow (Acoustic Version)
  3. Rachel (Acoustic Version)
  4. Little Silver (Piano Quintet Version)
  5. Ten Sleep (Live In Session For Lucid Shade)
  6. Broken Bow (Live In Session For Lucid Shade)
  7. Two Bridges (Live In Gijon/Xixon)
  8. Birdsnest (Live In Paris)
    **bonus 7"vinyl for TONE 066 edition
    Side A-
  1. Bells (Piano Version)
  2. Broken Bow (Acoustic Version)
  3. Side B-
  4. Rachel (Acoustic Version)
  5. Little Silver (Piano Quintet Version)
PERSONNEL:
David Gedge : Singing, Guitar Mellotron, Waterphone
Samuel Beer-Pearce: Guitar,Piano, Organ, Backing Vocals
Katherine Wallinger: Bass and Vocals
Charles Layton : Drums, Glockenspiel, Percussion

Terry de Castro: Backing Vocals, Steve Fisk : Keyboards, Brix Smith : narration on #2
Recorded By Andrew Scheps
【解説】
 デイヴィッド・ゲッジが妻でフォトグラファー、ローディーとしてもサポートを続けているジェシカ・マクミランと共に、北米20州を股に掛けたロード・トリップで横断した際に訪れた街の名前を冠した20曲を、旅のルートに沿って配置した全長78分にも及ぶバンド史上最長の大作。ジェシカ・マクミランが撮影、監督した楽曲に呼応した20編のショート・フィルムを収めたDVDもセットにした、コンセプチュアルな構成の作品でありながら、デイヴィッド・ゲッジ31年間のキャリアの中で培ってきた音楽的な自己蓄積の賜物と呼びたい、稀代の傑作である。この後に続く解説を読むのは後回しにて、まずは全編じっくりと、何度もお聴きいただきたい。


 David Lewis Gedgeの音楽的なキャリアを振り返った時、スタジオ・アルバム3作毎に新たな時代の転換点を迎えていることに気がつく。
 1992年、毎月第一月曜日にA面新曲、B面カバー曲という構成の7インチ・ヴァイナル・シングルを12ヶ月連続でリリースするという、当時メジャー・レーベルのRCAに所属しながら、インディーズ・レーベルでもなかなか困難であったであろうプロジェクト『The Hit Parade』を敢行したのはザ・ウェディング・プレゼント(以下TWP)デビュー7年目、『George Best』『Bizarro』『Seamonsters』という3作のスタジオ・アルバムを経て唯一無二のスタイルが確立され、商業的にも完全に軌道に乗った時期のことだった。
 1998年、デイヴィッド・ゲッジが当時の恋人でありローディーなどバンドのスタッフとして活躍していたSally Murrellと共に別名義の自称“ワイドスクリーン・ポップ・ユニット”CINERAMAを立ち上げ、最初のアルバム『Va Va Voom』をリリースしたのは、『Watusi』『Mini』『Saturnalia』と、1994年以降レーベル移籍とメンバーチェンジを繰り返しながらもリリースした3作のスタジオ・アルバムを発表し、殊ソングライティングにおいて新たな方向性を探りながらも、一旦TWPが活動休止状態に入った時期の出来事だった。
 2004年、CINERAMAの最終メンバーのままThe Wedding Presentとして制作した『Take Fountain』を発表することを公表したのは、CINERAMA名義で『Va Va Voom』、Steve Albiniを制作陣に迎えた2作『Disco Volante』『Torino』と3作のスタジオ・アルバムを経て、プライベートでの恋人との別離を経て地元英リーズも離れ、当初のTWPとは異なる方向性のポップ・ユニットから、最終的にはTWPの延長線上にあるエレクトリック・ギターを基調としたカルテットのアンサンブルで聴かせるバンドとしての方向性が明確になった時期だった。
 いずれも、そのプロジェクト、アルバムからまた新たな音楽的なフェイズに突入することになった、明確なターニング・ポイントであった。

 そして2016年9月発表、TWP名義のフルレングスのスタジオ・アルバムとしては通算9作目(1995年制作のミニ・アルバム『Mini』を含めれば10作目)となる本作『Going, Going...』もまた、TWP再始動後『Take Fountain』『El Rey』『Valentina』とまたもや3作のスタジオ・アルバムを経て発表された作品であり、前述の3作の例に倣えばこれもまた新たなターニング・ポイントとなる1作であるが、他方デイヴィッド・ゲッジというミュージシャン、ソングライターにとっての総決算ともなった1作にもなっている。ここにはかつての初期TWPのジャングリーな愛らしさも、CINERAMAでのオーケストラルな優雅さも、CINERAMA後期からスライドする形で再始動した現在のTWPならではの柔軟かつ屈強なバンド・サウンドも、デイヴィッド・ゲッジがその時々のバンド・メイトやエンジニアたちと共に著して来た作品の全てのエッセンスが溶け合っている。単なるそれまでの延長線上ではない、複雑な要素がレイヤーの様に積み重なり、結果的にデイヴィッド・ゲッジのそれまでの31年間の音楽的語彙を出し惜しみすることなく、この作品のために全て注ぎ込まれた格好になっている。それがキャリア史上最長となる全20曲・約78分という本作のヴォリュームに繋がったのであろうし、この20曲の並び、長さでなければ決して味わえない、ある種神懸かり的な整合性の高さは尋常ではない。曲間も含めて、非常に丹念に作り込まれていることがよく分かる。

 上記した作品やプロジェクトに共通するのは、新たな創作のモチベーションを求め、それまでのルーティンを敢えて外れるような作り方をしていることにあると思う。ツアーを繰り返し、そのツアーの中で制作中の新曲を試して、最終的にスタジオ・アルバムの形に落とし込むというパターンはやはりマンネリ化するのであろう。2012年の『Valentina』以降、早速ツアーで演奏された楽曲群...シングルとして発売された"Two Bridges"や"Bear"なども収められてはいるが、最終的には作品のコンセプトそのものから作り上げることからスタートすることになる。そしてそのスタート地点は、意外な形だが今の時代ならではのものであった。

 デイヴィッド・ゲッジと夫人のフォトグラファーであり、TWP/CINERAMA作品のアートワークの写真も手がけてきたジェシカ・マクミランの二人が、北米を東海岸メインから西海岸の(当時二人のコテージがあった)サンタ・モニカへと横断したロード・トリップの模様を記したブログがTumblr上に公開されたのは2014年6月のこと。そのブログのタイトルと本作のアルバム・タイトルはそのブログの冒頭で全編引用された英コヴェントリー出身の詩人フィリップ・ラーキンによる同名の詩「Going, Going」(1974年の遺作『High Windows(高窓)』所収。今日に至るまで唯一の日本語訳の全集である『フィリップ・ラーキン詩集』(1989年国文社刊)での邦訳題は「動く、動く」)に由来している。存命時には図書館司書として長年過ごしていた土地にちなみ“ハルの隠者”と呼ばれるほど神格化されていた、国民的な人気詩人だったラーキンの作品は1960年生まれのデイヴィッドの学生時代には馴染みのあるものだったことは想像に難くないが、なぜこの詩を全編引用したのか?デイヴィッドは理由を明確にしておらず、「単に語感が美しかったから」とはぐらかしている。だが、この詩を作者自身が朗読したテープがYouTubeにも公開されており、TWP自身も本作を曲順通りに演奏する発表記念のツアーでライヴの出囃子替わりにまるまるそのテープを流していたりもするので、何かしらの意図が込められているのでは?と深読みしたくなる。
 1974年に発表されたこの詩は、ラーキン研究の第一人者でもある高野正夫氏の評伝『フィリップ・ラーキンの世界』(2008年国文社刊)によれば、当時のイギリスの環境省から委託されて綴った、公的な政府の報告書のプロローグとして書かれたものとのことで、かつての英国の田園風景を慈しみ、現代文明に侵食されていく様を嘆く、時に野卑なスラングを配しながら複雑な恋愛感情を詠むことを得意としたラーキン作品にしてはやや珍しい硬質な社会批判的な側面もある作品だが、まさにこのフレーズが容易に連想させる「Going, Going, Gone!」...オークションや競りの際に飛び交う「これでおしまい、はい落札!」というお決まりの口上を思い出させるもの。TWPの本作の大半で綴られる恋愛模様は過去の二人の関係と現在の二人の関係を対比的に描く構図を取っていることから、何となくだがデイヴィッドが描く物語に相通ずるニュアンスを感じ取ることができるのだが、本作に同梱されているDVD所収の映像以上に、前述のロード・トリップの過程でジェシカが撮影した写真がふんだんに使用されたリリック・ブック(現在もScopitonesの公式サイトで入手できる)を眺めながら聴いていると、このラーキンの詩が感じさせる終末感を北米のロード・トリップの風景の中で反芻させるかの様な感情も抱かせる。失われて行くものに対するエレジーだと解釈すればまさにタイトルが連想させる「Going, Going, Gone!」なのかもしれない。だが、実際の音楽の圧倒的な力強さがその感情を一瞬にして吹き飛ばしてくれるのも、何とも複雑な味わいにつながっている。
 ちなみにバンド史上で新作スタジオ・アルバムでは初めてとなる全曲の歌詞がブックレットに掲載されたこともまた特筆すべきことで、定評あるストーリーテラーとしてのデイヴィッドの才にも改めて注目して欲しい。なお、余談だが、フィリップ・ラーキンの没年はTWPデビュー年、1985年12月のことであった。

 それにしても先のブログは一見すると何でもないプライベートな旅行ブログの体を成したものだったが、その書き出しからして意味深であった。
「バンドも無い、移動の為のヴァンも無い、別にこれといった課題も無い。単なるデイヴィッド・ゲッジとジェシカ・マクミラン二人のプライベートな旅だ。でもこれは、ウェディング・プレゼントのプロジェクトなのだ。フィルムを撮るのかい?知り合いの家に夕食を食べによるのかい?曲も書くのかい?いろんな質問があるだろうね...おそらくそのどれかはあるし、どれでも無いし、あるいはその全部かもしれない」
 このイントロダクションの通り、上記したブログで綴られた旅の道程が、本作『Going, Going...』への階となったわけである。
 創作上のコンセプトやモチベーションをこの旅に求めたことは、通常のアルバム制作のルーティンワークに陥らない方法として、単なるきっかけに過ぎなかったのかもしれないが、詩作面ではこの旅の途中で訪れた都市や地名から多くのヒントを得たのは間違いないだろう。実際本作に収録された楽曲の曲名は全て北米の地名となっていて、M2”Greenland”でラジオ放送の天気予報の様なブリクス・スミス(元The Fall/Mark E. Smith夫人)によるナレーションが流れているが、これが実は座標軸となっている。それぞれの座標軸を地図アプリ(例えばGoogle Map)上で検索すると、本作の収録曲名と同名の街の位置を示す。曲順に辿れば、先のブログで二人が訪れた街を含め、東海岸Kitteryから西海岸Santa Monicaへの20州を股に掛けた道程が地図上に引かれることになるので、一度お試しいただきたい。それにしても、「秘書」とか「キル・デビル・ヒルズ」とか、街の名前としては似つかわしく無いものもあって、由来が知りたくなる。
 今までも様々な謎掛けが仕掛けられていた作品もあるにはあったが、今回はだいぶ手が込んでいる。音楽的なシリアスさ、ストイックさとこういった遊び心が共存するあたりもまたTWPのカタログらしいと思う。その旅の途中でジェシカが撮影した写真を使用したアートワークも非常に美麗なので、同時発売の2LP盤(CDとDVDも同梱されている)をおすすめしたい。

 改めて本作収録曲について触れておきたい。全20曲、約78分。これまで1時間にも満たぬかつてのC-46のカセット・サイズの長さの作品がほとんどだったTWPのスタジオ作品の中では言うまでもなく最長の大作となったが、1曲の中に詰め込まれた様々なアレンジのアイディアだけではない、近年の楽曲至上主義と呼びたいストイックなソングライティングへの取り組みが随所に現れ、インストゥルメンタル主体の5曲を含め、隅々までTWP作品らしいメロディラインが煌めき、聴くものを平伏せさせるTWPのトレードマーク、怒涛のギターサウンドが強烈なバンドアンサンブルと共に繰り出され、クライマックスとなる場面が幾度となく訪れる。右チャンネルに本作のギタリスト、サミュエル・ビア・ピアス(残念ながら本作発表後の全曲再現ツアー後に脱退)の時にリリカルに、時にフリーキーにと、楽曲に合わせニュアンスに富んだプレイを繰り出すリード・ギター、左チャンネルにデイヴィッド・ゲッジの硬質なストローク・プレイとリズム・ギター、そして得意のボトルネックを使ったプレイ、2人の対照的なスタイル・音色のエレクトリック・ギターを全編に渡って、敢えて左右のチャンネルに分けているのも効果を上げていて、それぞれのギターサウンドに注目して聴いているだけでも相当楽しめる。前作『Valentina』から引き続き、Red Hot Chilli Peppers、Black Sabath、Weezer、Adele、Beyonceなど数多くの作品を手がけてきた名匠、Andrew Schepsが本作では全編に渡って録音からミキシングまで共同プロデューサーとして携わっているのも大きすぎるポイントで、TWP特有のポップネス、メロウネスを残しながら、ライヴでのTWPらしさを容易に思い出させるエネルギー溢れるバンドサウンドを際立たせた全体のサウンディングも見事だ。録音、ミックスダウンは1992年の『The Hit Parade』シリーズや、2002年のCinerama『Torino』でも使用した英リヴァプールのParr Street Studiosがメインだが、かつてAndrew Schepsがプロフェッショナルのスタジオエンジニア向けの講義を行った『Mix with the Masters』の企画でTWPをゲストに迎えて南フランスのスタジオLa Fabriqueで行ったセッションからも収録されている。

 前作の『Valentina』もまた緩急つけた構成で聞かせる1作ではあったが、今回はその比ではないだろう。叙情と激情が交互に訪れる冒頭15分にも渡る4曲のインストゥルメンタルは近年の作品だったら曲間のインタールード的に扱われていた要素を、1曲1曲丁寧に『Going, Going...』という大きな絵画の1ピースとして成立させることに成功している。ポスト・ロック的なアプローチも感じさせる轟音ギターの#1”Kittery”から幕を開け、エクスペリメンタルな#2”Greenland”(前述の通り、ミステリアスなナレーションを担当するのは元The FallでMark E. Smith夫人でもあったブリクス・スミス。バック・グラウンドの効果的なキーボード・サウンドはTWP/CINERAMAの過去作でタッグを組んだスティーブ・フィスクが担当。スティーブは本作の要所要所でキーボード・プレイで貢献している)、初期CINERAMAのインスト"Model Spy"を思い出させる女声コーラスを中心に組み立てられた#3を経て、CINERAMAイヤーズのオーケストラルな側面をこの1曲に凝縮させた様な#4に至るまでのこのパートだけでも引き込まれることは間違いない。

 この4曲で聴き手を完全に異世界へ誘っておいて、2013年にツアー会場と通販限定で7インチ・ヴァイナル・シングルとしてリリースされていた#5 “Two Bridges”(今回再録音)から始まる、めくるめく怒涛のTWP印のギターロック16連打に完膚無きまでに打ちのめされる。どこを切ってもTWPらしい、エネルギッシュな展開に痺れるし、冒頭の4曲からの流れで聴けば、これ以降のどこまでも限界無く突き進んで行くような展開に、心が躍る躍る。その後もステージやBBC 6 Musicのラジオ・セッションで評判だった楽曲が並ぶ。美しいアルペジオと後半のヘヴィリフの対比が見事な#6”Little Silver”、終盤にかけての三声のハーモニーと相まって突き抜けていく開放感に心奪われるリードオフシングルの#7”Bear”、一転してパンキッシュな#8"Secretary"(秘書)では本作のベーシストキャサリン・ウォリンジャー(ちなみに元Waterboys/World Partyで知られるKarl Wallingerの姪っ子にあたる。残念ながら彼女も本作発表後の全曲再現ツアー後に脱退)のコケティッシュなヴォーカルもフィーチャーされる。「1曲にフルサイズのEPに込められるアイディアを注ぎ込んだ」とDavidが語る#9”Birdsnest”では重量感のある彼女のベースラインも光る。2004年再生後以降のTWPと80年代のジャングリーなスタイルのTWPが完全に融合したかの様な疾走感溢れるこのトラックは本作でも屈指の名曲と言っていい。Cinerama時代からの盟友Terry de Castroのハスキーなバック・コーラスも耳を惹くロッキンな#10”Kill Devil Hills”まで、一気に駆け抜けるここまでの6曲は、息をつく瞬間を探すのが難しい。TWPファンなら至福の時を過ごせること請け合いだ。

 場面転換となるようなミディアム・マイナー調の楽曲も個性的な名曲揃い。#11”Bells”はCINERAMA後期からの黄金律と呼びたいお得意のパターン、#12”Fifty-Six”は後半の反復しながらヒートアップしていく展開がこれまた超王道のTWPスタイルで、思わず快哉を叫ぶ。バックに忍び込むメロトロンとのユニゾンが気持ちいい。今やTWPに欠かせない屋台骨と呼びたいチャールズ・レイトンのドラミングはここでも大活躍している。Cinerama後期から何度も試みられてきたストリングスとバンド・サウンドとの掛け合いがスリリングな#13”Fordland”に続く#14”Emporia”はリリカルなピアノの調べに導かれるように始まるが後半で様相が一変する。双頭の龍の如く両チャンネルでスライド・ギターが暴れ回るエンディングには全身が総毛立つ。それにしてもデイヴィッドのヴォーカリストとしての魅力は充分分かっていたつもりだが、この曲での歌唱は絶品と言う他無い。本作全編を通じて感じることのできる力強さは、さらに表現力に磨きがかかったデイヴィッドのヴォーカルに依る所は本当に大きいと思う。2016年のRecord Store Day限定カタログだった2枚組のオムニバス盤『Brighton's Finest Vol 1』で先行公開されていたソリッドな#15”Broken Bow”(今回再録音)は時が時ならシングルになっていたかもしれない逸品。先のオムニバス盤での一筆書き的なラフなヴァージョンもぜひ聴いて欲しい(個人的にはこちらのオムニバス・テイクの方が好み)。本作は音楽的手法もさることながら、こういったシングルとしても通用しそうなナンバーが目白押しで、あらゆる面で出し惜しみが一切ない。
 箸休め的なポップさもありながら、曲中のストリングスとバンド・サウンドが拮抗するリフ構成に痺れる#16”Lead”、再びアッパーな快作#17”Ten Sleep”と持ち味を活かしたコンパクトな小気味良いナンバーが続き、#18”Wales”は再び#1で登場したようなポスト・ロック的なインストゥルメンタル主体の1曲。#1もそうだが、デイヴィッドお気に入りの盟友Steve AlbiniのグループShellacやExplosion in the Skyも意識したようなバンド・アンサンブルがたまらない。再び登場のスティーブ・フィスクがメロトロンとオルガン・プレイで楽曲に華を添える。ところで本作のコンセプト的に曲名は北米の都市、ユタ州ウェールズに由来しているのに、英国のウェールズ語のナレーションをフィーチャーしているのが何とも洒落ている(というか単なる駄洒落か)。ここでのナレーションを担当しているのは2014年のRecord Store Day限定のリリースだった、『Valentina』収録曲をウェールズ語詞で再録した別テイク集10インチ”EP 4 Can”の訳詞を担当したAndrew Teiloというウェールズで活躍中の俳優とのことだ。それにしても、所謂歌ものではなくても、TWPならでの歌心を感じさせるこの楽曲は文字通りの意味で新たな方向性を示した名曲だと思う。この楽曲が翌年の全曲インストゥルメンタルの傑作EP『The Home Internationals EP』にそのまま再収録されたのも納得が行く。
  本作でデイヴィッドが一番のお気に入りというのがとびきりキャッチーな#19”Rachel”。「TWPは常に、徹底したポップソングを書いてきた。これもその1つだよ」と言う通り、これはTWP/CINERAMAを通じても屈指のポップサイドの傑曲だ。サウンドの意匠に隠れているが、ストーリー構成としてはCineramaとしての第1作目『Va Va Voom』でのオーソドックスなアプローチに戻ったとも言えるが、歌詞も含め、理想的なラヴ・ソングという他ない。
 そして10分にも及ぶクロージング・チューンの#20”Santa Monica”(なお、CD盤は収録時間の都合、イントロがフェードイン、アウトロがフェードアウトしている6:40強のショートEditになっているので、こればっかりはアナログ盤かダウンロード版でお楽しみいただきたい)。発表後海外ではファンからの支持の高い1曲だが、あの1991年の『Seamonsters』が湛えていた空気感を、詩作も含めて、この1曲の中で描ききってしまったかの様な壮大なスケールのこれまた名曲である。ところで、今回は全曲に呼応した20編のショート・フィルムが収録されたDVDがセットとなっているが、ジェシカが前述のロード・トリップの中で撮影した素材を元にはしているものの、楽曲の世界観にはあまり合わないな、と思えるものが大半なのだが、この"Santa Monica"だけはぜひDVDと共に楽しんで欲しい。まさにストーリーの終わりを演出する、そして歌詞の通りの沈み行く夕陽がきらめくサンタ・モニカの海岸を映し出した映像の美しさもまた格別。デイヴィッドのヴォーカルに海の彼方から聴こえてくるようなリヴァーヴがかけられているのも非常に効果を上げていて、この音響的な演出はそのままライヴの実演時にも取り入れられている。

 1985年3月デビューで最初の活動休止が1997年2月までで活動期間は11年11ヶ月、2004年9月の再始動後、本作発表でちょうど12年を迎えたわけで、TWP名義では再始動後の方が活動休止前の期間よりも長く活動していることになった。冒頭で述べた通り、本作はデイヴィッド・ゲッジ31年間の音楽的なキャリアの総決算的作品となったが、今現在を生き続ける現役のロックバンド、THE WEDDING PRESENTの堂々たる最新作としても、他の多くの新作に引けを取らない文句無しの1枚となった。TWPと同時代に活動したロック・バンドの多くが昔のラインナップで懐古的なリユニオンを果たし、昔のヒット曲を中心としたワンショットのギグや音楽フェスへの出演でお茶を濁す中で、TWPほど真摯に自らの過去の作品に向き合いながら、勢力的にファン・サービスたっぷりのツアーを展開(2007年から始まった全曲再現ツアーは1997年以前の作品は一巡した)し、その過程でさらに新たな楽曲を創り、今やその意義が軽視されがちでもあるパッケージとしての音楽作品を産み出し続けている例は他には見当たらないし、TWPがここまで、どこまでも本気で現役で活動し続けるとは誰も予想だにしなかったのではないだろうか?「これで終わり(Going, Going, Gone!)」なんて雰囲気は微塵も感じさせない。
 本作の終曲"Santa Monica"はこんなラインで締めくくられる。「涙を拭きなよ/ここで物語は終わるよ」。しかし本作を聴き終えた今去来するのはそんなラインや、或いはモノクローム基調のアートワークが醸す寂寥感ではなく、ここからまた、新たな旅が始まるのだというワクワクするような高揚感だ。そう、このジャケット写真は、新たな地平に向かってまたデイヴィッドたちが走り始めたことを象徴してもいる、そう感じられてならない。次がまた4年後になるのか(ここ3作は夏季オリンピック開催年のリリースになっている)誰にも分からないが、その時を楽しみにしながら、しばらくは本作の世界に浸っていようと思う。


<<--- previous release "Bear"(2016)next release "Marc Riley Sessions Volume 1"(2016)--->>
| top |