時々、自分に小さな課題を課すのが好きなんだ。『24 Songs』プロジェクトでは、30年前の『The Hit Parade』で挑戦した“1年で12枚のシングルを出す”という試みを再び行った。だから今回も、もう一度挑戦してみようと思った。
『40』のスリーブノートにも書いたように、『Maxi』の楽曲は比較的短期間で書き上げた。というのも、僕自身の人生で起きた出来事に触発されて、歌詞も音楽も非常にインスピレーションに満ちていたからだ。新しく加わったギタリスト、レイチェル・ウッドとの共作も大きく影響していて、彼女のギターとエフェクトの“武器庫”のおかげで、これまでよりもスケール感があり、ムーディーで、そして確実にロック色の強い作品になったよ。(ディヴィッド・ゲッジ/プレスリリースのコメント)
ザ・ウェディング・プレゼント(以下TWP)のデビュー40周年を締めくくる、2025年現在進行形の楽曲群を収めた6曲入りEP。2022年の月刊シングル・シリーズ『24 Songs』も手がけたトビアス・メイと共に、Levellersのメンバーが所有・運営するブライトンのMetway Studios、そしてブライトン近郊PortsladeのSalvation Music Studiosで録音された。ここ数年、ステージ上で抜群の存在感を放ってきたギタリスト、レイチェル・ウッド加入後としては初のスタジオ録音作品でもある。発売元はおなじみ英リーズのClue Recordsで、穴開きダイカット・スリーブ仕様のクリアー10インチ・ヴァイナルとCDの2形態。さらに久しぶりに米アセンズのHHBTM Recordsからもアナログ盤がリリースされ、こちらは12インチ盤でジャケットの色味など英国版とは仕様が異なり、インディーショップ限定の赤クリアー・ヴァイナルと通常の黒赤ヴァイナルの2種が用意されている。なお、ジャケットに記された数値は各楽曲の長さを秒数で表したものだ。
6曲入りで10インチ・アナログ盤とCDという仕様から、1995年制作・翌1996年1月にCooking Vinylからリリースされた『Mini』を思い出す人も多いだろう。同作はすべての楽曲が「車」をテーマにしたコンセプト作品だった。対する本作『Maxi』は「ドライブ」をテーマにしており、曲名や歌詞のすべてが運転や移動に関連している。ディヴィッド本人が認めている通り、30年の時を経て運命的なタイミングで同じアイディアを再訪することになったわけだが、作風としても『Mini』同様に新たな段階へ踏み出したことを感じさせる、瑞々しいドライヴ感に貫かれた作品となっている。
1. Scream, If You Want To Go Faster
ゆっくりとフェードインしてくるイントロから引き込まれるオープニング・トラック。タイトルは遊園地のアトラクションの決まり文句に由来するが、曲中では“叫んでも何も変わらない現実”を示す比喩として用いられ、男女間の距離感やスピード感のズレ、焦りが描かれる。ストーリーと曲のテンポがリンクしており、戸惑いと諦念が漂う前半から、転調後に感情が爆発する展開はまさにDavidらしい。「こんな展開、君も予想してなかったよね。僕だってそうだ。/どこにも行きたくないんだ。まだ動きたくない。/“速く行きたいなら叫べばいい”/君はそう言ったよね。/でも僕は行きたくない。まだどこへも」レイチェルのワウを効かせたギタープレイも物語を鮮やかに彩っている。
2. Grand Prix
ツアー初披露時の仮タイトルは"This is The Girl"。タイトルからはF1などのモータースポーツを連想させるが、実際にはレースのように“追いかけても追いつけない関係”を描いたストーリーだ。「君の全部が好きだ」「君を失うなんて考えられない」という男性の必死なアプローチが全編にわたり繰り返され、仮タイトルが示す“目の前の君”への一途な思いが胸を打つ。今回のレコーディングでは、2024年の『Watusi』30周年記念ツアーに参加したドラマーVinnie Lammi、そしてブライトンのバンドGomezのメンバーでもあるベーシストPaul Blackburnが参加。この曲での特にPaulの重量感あるベースラインが素晴らしい。
3. Hot Wheels
『40』やミュージカル『Reception - The Wedding Present Musical』入場者特典7インチ盤に先行収録されていた楽曲。タイトルは1960年代からMattelが発売しているミニカーシリーズに由来する。ライヴ初披露時の仮タイトルは歌詞にも登場する"I could write a book"。「君のことを語るだけで、本が一冊書けるよ/君のあの表情、あの瞬間/僕があのとき賭けた気持ちも全部」というサビが象徴する熱量に満ちた前半と、本EPの終曲タイトルでもある"Silver Shadow"が“つかめないのに追わずにはいられない君”の象徴として登場するスローダウンした後半の対比が印象的。ここまでのA面が“追いつきたくても追いつけない存在”を共通テーマとしていることに気づかされる。
4. Two For The Road
かつての『Mini』はオープニングが車のエンジン音で始まったが、『Maxi』ではB面トップのこの曲に同じ意匠が施されている。"Hot Wheels"と並び、発売前からレディオ・セッションやライヴで頻繁に演奏されてきた1曲。ディヴィッドが語った「僕自身の人生で起きた出来事に触発された」部分の多くは、この曲に結実している。米シアトルのFM局「KEXP」でのスタジオ・ライヴでも捧げられていた、新しい恋人Charlotte Adolphoとの“2人で行く道”を描いた「再出発の旅」だ。「僕たちを待っている世界があるんだ/だから荷物を持って、ここを出よう/君は僕を夢中にさせるんだ/だって、僕には“間違いない選択肢”が全部そろってるんだから/君の準備ができたら、僕もできてるから」。ここまで迷いながら追いかけていたものが、ついに掴み取れた感覚。B面トップに配置された意図も明確だ。トップギアに入れたまま終盤まで突っ走る感覚も、まさに王道のTWPチューン。なおCharlotteはCinerama名義の『Va Va Voom 25』のジャケットにもモデルとして登場し、2025年のフェス「At the Edge of the Sea」ではCineramaのステージにキーボーディストとして参加していた。
5. Interceptor
しかし、その幸福感も長くは続かない。物語的にも音楽的にも“異物”として配置された1曲だ。Interceptorと言えば往年のイギリスのジェンセン・モーターズが生産していた高級車「ジェンセン・インターセプター」が有名だが(または映画『マッドマックス』シリーズに登場するV8インターセプターの方が有名かな?)、ここでは“侵入者”の意味で使用されており、まさに“侵入者”の不穏さを音で表したような曲調。淡々と呟く様な冒頭から、場面転換的に飛び出してくる、思いがけずToolを想起させるヘヴィなギターリフが耳を惹く。侵入者とは過去の男の影でもあり、主人公は飲みに行くパートナーの女性への猜疑心を隠せない。サビの「だから分かるんだ。男の心がどう動くか。」が、終盤に挿入される酔った女性からの3回の留守電メッセージ(“少し飲んだら帰る”と言いながら、最後には“そのうち帰るから”へ変化していく)の後にも繰り返されることで、“侵入者”の存在が確信へと変わっていく。かつて"Jealousy is an essential part of love"と歌ったDavidの面目躍如たる、嫉妬心に満ちた1曲。