RELEASE DATE: September 19th, 2025 (U.K./Europe)
LABEL / CATALOGUE No:
Clue Records (U.K./Europe) - CLUE1985(4LP), CLUE1985CD(4CD)
収録曲目(Tracklisting)
Side A
1 Go Out And Get 'Em, Boy! [single (1985) & Tommy (1988)]
2 You Should Always Keep In Touch With Your Friends (Peel Session Version) [Tommy (1988)]
3 Anyone Can Make A Mistake [single & George Best (1987)]
4 Everyone Thinks He Looks Daft [George Best (1987)]
5 A Million Miles [George Best (1987)]
6 My Favourite Dress (LP Version) [George Best (1987)]
Side B
7 Nobody's Twisting Your Arm [single (1988)]
8 Davni Chasy [Ukrainski Vistupi V Johna Peela (1989)]
9 Give My Love To Kevin (Acoustic Version) [b-side of the single "Why Are You Being So Reasonable Now?" (1988)]
10 Kennedy [single & Bizarro (1989)]
11 What Have I Said Now? [Bizarro (1989)]
Side C
12 Bewitched [Bizarro (1989)]
13 Take Me! [Bizarro (1989)]
14 Brassneck (Single Version) [single (1990)]
15 Crawl ["3 Songs EP" (1990)]
Side E
21 Heather [Seamonsters (1991)]
22 Blue Eyes [single & Hit Parade 1 (1992)]
23 Come Play With Me [single & Hit Parade 1 (1992)]
24 Flying Saucer [single (1992) & Hit Parade 2 (1993)]
25 Click Click [Watusi (1994)]
Side F
26 Spangle (LP Version) [Watusi (1994)]
27 Convertible [Mini (1996)]
28 Montreal [Saturnalia (1996) & single (1997)]
29 Kansas [Saturnalia (1996)]
30 I'm From Further North Than You [single & Take Fountain (2005)]
31 Interstate 5 (LP Version) [Take Fountain (2005)]
Side G
32 Perfect Blue [Take Fountain (2005)]
33 Don’t Take Me Home Until I'm Drunk [El Rey (2008)]
34 Boo Boo [El Rey (2008)]
35 Deer Caught In The Headlights [Valentina (2012)]
Side H
36 Two Bridges (LP Version) [Going, Going...(2016)]
37 Rachel [Going, Going...(2016)]
38 I Am Not Going To Fall In Love With You (LP Version) [24 Songs (2023)]
39 Science Fiction (LP Version) [24 Songs (2023)]
40 Hot Wheels [Maxi (2025)]
ザ・ウェディング・プレゼントが1985年5月に発表したデビュー曲「Go Out And Get 'Em, Boy!」から、2025年の最新曲「Hot Wheels」まで──40年にわたるキャリアの中で生み出された膨大なカタログから、David Gedge自身が選び抜いた40曲を収録した、約3時間に及ぶ超特大コンピレーションがこの『40』。4枚組LP/CDという圧倒的なボリューム、そして選曲の質、どちらをとってもデビュー40周年を祝うにふさわしい、まさに決定版といえる内容だ。
1. Go Out And Get 'Em Boy!(1985年5月24日リリース) この曲とB面曲〔(The Moment Before) Everything's Spoiled Again〕には、思いつく限りの面白いアイデアを詰め込んだ。今思えば、やりすぎってくらい詰め込んでたな(笑)。とにかく、ラジオから飛び出して耳をガッと掴むような、インパクトのある音にしたかったんだ。録音はリーズの「ビリヤード・ルーム」っていう小さなスタジオでやった。エンジニアのカール・ローザムンドは、ありがたいことに、普通よりギターをデカくしたいっていう僕たちの無茶なミックスの希望にちゃんと応えてくれた。BBC Radio 1 でジョン・ピールが初めてこの曲を流してくれたときは、人生で一番興奮した瞬間のひとつだったよ。
出典情報: Reception Recordsからリリースされたシングル「Go Out And Get ’Em, Boy!」より。後にコンピレーション・アルバム『Tommy』にも収録。録音:カール・ローザムンド。プロデュース:カール・ローザムンド&The Wedding Present。
2. You Should Always Keep In Touch With Your Friends(1986年2月26日オンエア) この歌詞は、1980年代初頭に僕と初めての彼女が交わした約束について書いたものなんだ。たとえ別れることになっても、毎年ヨークシャーのスカーバラ近くの橋で会おうって約束してた。結局すぐに別れちゃったんだけど、その橋で再会したのは2023年――約40年ぶりだった。このヴァージョンは、1986年にロンドンのメイダ・ヴェールにあるBBCの有名なスタジオで録った。後にヨークシャーのブラッドフォードで録ったサード・シングルのヴァージョンでの録音はちょっと“箱鳴り”っぽくて、この初めてのピール・セッションのヴァージョンの方が自然な響きだったからコンピ盤にはいつもそっちのバージョンを使ってる。このトラックはBBC Musicとの提携でリリースされたもの。
出典情報: BBC Radio 1のジョン・ピール・セッションで録音。後にコンピレーション・アルバム『Tommy』に収録。後年のバージョンはシングル「You Should Always Keep In Touch With Your Friends」に収録。録音・プロデュース:マイク・ウィルコック。
3. Anyone Can Make A Mistake(1987年9月14日リリース) 『GEORGE BEST』の録音でプロデューサーのクリス・アリソンが使った技術は、当時としてはかなり先進的だった。少なくともダンス・ミュージック以外の世界ではね。ドラム・プログラミングとか、シーケンス処理、サンプルの使用とか、いろいろ取り入れててさ。ある午後、クリスの音源ライブラリをみんなで漁って、それぞれお気に入りのドラム・サンプルを選んだんだ。
「Anyone Can Make A Mistake」のドラム・サウンドは、僕が選んだやつ。特にバスドラムの音がめちゃくちゃデカくて気に入ってたからね。この曲に使った理由?それは単純に、この曲がアルバムの中で一番好きだからだよ。
出典情報: Reception Recordsからリリースされたシングル「Anyone Can Make A Mistake」より。後にアルバム『George Best』にも収録。録音:アラン・ジャコビー、ミック・ウィリアムズ、スティーヴ・ライオン。プロデュース:クリス・アリソン。ミックス:The Wedding Present。
4. Everyone Thinks He Looks Daft(1987年10月12日リリース) 歌い出す前の息を吸う音をそのまま残すっていうアイデア、誰が言い出したのか覚えてないんだけど、なかなか賢いと思うんだよね。だから、できれば僕のアイデアだったってことにしておきたい(笑)。普通はエンジニアがそういう余計な音を消したり、音量を下げたりするんだけど、これは堂々と残ってる。しかもアルバムの1曲目だから、余計に目立つんだよね。
5. A Million Miles(1987年10月12日リリース) 歌い出しの一行は、1986年にスイスをツアーしてたときの出来事がヒントになってる。でも、歌詞の残りはもっと前のいろんな経験から引っ張ってきたものなんだ。
曲の中に出てくる「チャーリー」ってのは、映画評論家のチャールズ・ガントのこと。ロンドンでライブやレコーディングするときは、彼のフラットに泊まらせてもらってた。ちなみに「You Should Always Keep In Touch With Your Friends」っていう曲のタイトルも、チャーリーが手紙の最後にそう書いてたのを見て、そこからもらったんだよ。
「A Million Miles」の最後の一行“at least, not yet”は、僕としてはちょっと誇らしいんだ。新しい恋の始まりに感じる高揚感っていうテーマを、ちょっと皮肉っぽく茶化してるところが気に入っててさ。
6. My Favourite Dress(1987年10月12日リリース) 初代ドラマーのショーン・チャーマンは、「My Favourite Dress」を“切り札”って呼んでた。当時の僕らの曲の中で、ダントツで一番いいって思ってたらしい。僕自身は最初そこまでの実感はなかったんだけど、ライブでの反応を見てるうちに、ああ、彼の言う通りだったなって思うようになった。
この曲は、1986年10月にStrange Fruit Recordsから出たピール・セッションEPを除けば、僕らの4枚目のシングルのA面になった。でも『GEORGE BEST』のアルバム用には、エンディングをちょっと作り直したんだ。スタジオで見つけたゴングを鳴らして、最後はピーター・ソロウカのギター以外の音を全部フェードアウトさせた。で、なんであんなに急に終わるかっていうと…テープが足りなくなったから(笑)。
(補足) ちなみに今回の『40』ではエンディングがブツっと切れるのではなく、わずかにフェードアウトをかけることで自然に終わるように聞こえるよう処理されている。似たような処理はこの後の"Interstate 5"のエンディング(アルバムでは次曲イントロへシームレスにつながるスタジオ・ノイズが残っていた)や"Deer Caught in the Headlights"でも行われている。
この曲が出た直後、アイルランドのダブリンにある歴史あるライブハウス「マゴナグルズ」で、僕らのライブ史上でも屈指の“気まずい”紹介があったんだ。主催者が観客に向かってこう言ったんだよ――「来てくれてありがとう。誰にも無理強いされてないよね!(Nobody's twisting your arm!)それではThe Wedding Presentです!」
…いや、もうちょっと他に言い方あっただろって(笑)。
出典情報: Reception RecordsよりリリースされたEP「Nobody's Twisting Your Arm」収録。後に『George Best』の拡張版にも収録。録音:アラン・ジャコビー、スティーヴ・ライオン。プロデュース:クリス・アリソン。
8. Давні часи (Davni Chasy)(1988年4月5日オンエア) 7~9曲目では、ピーター・ソロウカがアコーディオンを弾いてる。僕が彼に勧めたんだ。音に温かみと新しい質感が加わると思ってね。彼がバンドで初めてアコーディオンを弾いたのは、1987年10月にジョン・ピールのセッションで録音したとき。ウクライナやロシアの民謡を僕ら流にアレンジして演奏したんだ。
出典情報: BBC Radio 1のジョン・ピール・セッションで録音。後にコンピレーション・アルバム『Українські Виступи в Івана Піла(Ukrainski Vistupi V Johna Peela)』に収録。録音:マイク・ロビンソン。プロデュース:デイル・グリフィン。
9. Give My Love To Kevin (acoustic version)(1988年9月19日リリース) 「Give My Love To Kevin」はもう一度録り直したかったんだ。『GEORGE BEST』に入ってるバージョンは、エレキギターがずっと鳴りっぱなしで、ちょっとゴリ押し感があってね。もっと柔らかくて、繊細なアレンジの方がこの曲には合うと思った。
ちなみに“Give my love to Kevin”っていうフレーズは、当時夢中で観てたGranadaテレビの『CORONATION STREET』っていうソープオペラから拝借したもの。ちょうどこの曲がリリースされた頃に、SOUNDS誌の撮影でその『CORONATION STREET』のセットに行ったんだよ。偶然って面白いよね。
出典情報: Reception RecordsよりリリースされたEP「Why Are You Being So Reasonable Now?」収録。後に『George Best』の拡張版にも収録。初期バージョンはアルバム『George Best』に収録。録音:アラン・ジャコビー、スティーヴ・ライオン。プロデュース:クリス・アリソン。
11. What Have I Said Now?(1989年10月23日リリース) 10~13曲目は、バース近郊のソマセットにある「The Wool Hall」っていう、ものすごく豪華なレコーディング・スタジオで録ったんだ。Tears For Fearsが所有してた場所で、RCA Recordsからそれまでとは比べものにならないくらいの予算をもらえたから、そこに行けたってわけ。
15. Crawl(1990年9月17日リリース) 2回目のアルビニとのセッションは、1990年の北米ツアーのシカゴ公演とサンフランシスコ公演の間に、Chicago Recording Companyっていうスタジオで行ったんだ。「Crawl」と「Corduroy」、それから Steve Harley の「Make Me Smile (Come Up And See Me)」のカバーを録音した。
(補足)
歌詞の中には「It’s time for him to crawl back under his stone(彼は石の下に這って戻る時だ)」という一節がある。
これは、恥ずかしさや敗北感から“隠れたい”という心理状態を表すイギリス英語の表現。全体の歌詞では、過去の過ちや嘘、壊れた関係について歌われていて、「でも本当はそんな風じゃなかったんだ」という自己弁護と否認が繰り返され、自分の過去と向き合う苦しさや、相手に許しを乞うような姿勢を象徴していると考えられる。David Gedge はこの曲の冒頭で「柔らかい歌い方」を試みたと語っているが、それは歌詞の内省的なトーンと呼応しているとも言え、一方で、ギターやベース、ドラムは激しく、感情の爆発と抑圧のコントラストが際立っている。つまり「Crawl」という言葉は、単なる動作ではなく、感情的な“後退”や“自己崩壊”の象徴として用いられているのだと思う。
22. Blue Eyes(1992年1月6日リリース) 「Blue Eyes」は、新しいラインナップで初めて取り組んだ曲なんだ。ギターにはポール・ドリントンが加わってる。これは典型的な“Eギター”の曲で、変則チューニングにしたストラトキャスターで最初のリフを書いたとき、「これ、僕っぽくないな」って思った。でもそれがすごく良かったんだよね。
出典情報: Cooking Vinyl Recordsよりリリースされたアルバム『Saturnalia』収録。後にEP「Montreal」にも収録。録音:チェンゾ・タウンゼンド。プロデュース:チェンゾ・タウンゼンド & The Wedding Present。
29. Kansas
(1996年9月9日リリース) “I don’t think we're in Kansas any more”っていう歌詞は、1939年の映画『オズの魔法使い』でドロシーが言うセリフをアレンジしたものなんだ。このフレーズは、自分が奇妙な状況に置かれていると感じたときによく使われるよね。
それから、“just close your eyes and tap your heels”っていう歌詞も、同じ映画から拝借したんだ。
『Saturnalia』の録音は、ロンドンのテムズ川沿い、トゥイッケナムとリッチモンドの間にあるSeptember Soundスタジオで行った。ここは以前、ピート・タウンゼンドのEel Pie Studiosだったんだけど、僕らが使ったときにはCocteau Twinsが所有してたんだよ。
出典情報: Cooking Vinyl Recordsよりリリースされたアルバム『Saturnalia』収録。録音:チェンゾ・タウンゼンド。プロデュース:チェンゾ・タウンゼンド & The Wedding Present。
(補足) 映画『オズの魔法使い』の冒頭、主人公のドロシーは灰色のモノクロ映像で描かれたカンザスに住んでいる。ある日、竜巻によって家ごと飛ばされ、目を覚ましたドロシーが扉を開けると、そこには色鮮やかなオズの国が広がっていて、彼女はこう言う。
“Toto, I've a feeling we're not in Kansas anymore.” この瞬間、映画はモノクロからテクニカラーに切り替わり、現実からファンタジーへの転換が視覚的にも明確に示される。David Gedge がこのセリフを引用したのは、感情的・状況的な“異世界感”を表現するためだったのだろうと推測する。恋愛や人間関係において、予期せぬ展開や心の混乱に直面したときの“現実が揺らぐ”ような感覚を、「カンザスじゃない」=もう元の世界には戻れない、という感覚を表しているのだと。
30. I'm From Further North Than You
(2005年1月31日リリース) 『Take Fountain』の制作では、またシアトルでスティーヴ・フィスクと一緒に仕事をしたんだけど、今回はRobert Lang Studiosで録音したんだ。ここはワシントン州ショアラインにあるスタジオで、Nirvanaが最後にスタジオ録音をした場所としても知られてる。
「I'm From Further North Than You」って曲の元々のタイトルは“Edinburgh”だったから、プロモーション・ビデオもエディンバラで撮影したんだ。
出典情報: Scopitones Recordsよりリリースされたシングル「I'm From Further North Than You」収録。後にアルバム『Take Fountain』にも収録。録音:スティーヴ・フィスク。プロデュース:スティーヴ・フィスク & The Wedding Present。
出典情報: Scopitones Recordsよりリリースされたアルバム『Take Fountain』収録。録音:スティーヴ・フィスク。プロデュース:スティーヴ・フィスク & The Wedding Present。
33. Don't Take Me Home Until I'm Drunk(2008年5月26日リリース) 33~34曲目は、アルバム『El Rey』からの収録曲で、シカゴのElectrical Audioスタジオでスティーヴ・アルビニと一緒に録音したんだ。The Wedding Presentとして彼と録音するのは『Seamonsters』以来だったけど、その間にCineramaでは何度か彼と仕事してたんだよね。
“Don't Take Me Home Until I'm Drunk”っていうタイトルは、1961年の映画『ティファニーで朝食を』でホリー・ゴライトリーが言うセリフから取ってる。
(補足) 引用元となった映画『ティファニーで朝食を』(1961年)でホリー・ゴライトリーが言うセリフ
“Don’t take me home until I’m drunk — very drunk indeed.”
このセリフは、ホリーが感情的に不安定になっている場面で登場する。彼女は過去の結婚生活を清算し、自由を手に入れたはずなのに、心の中では孤独や不安を抱えていて、その複雑な心情を紛らわせるために、ポール(主人公)に向かってこのセリフを言い、夜の街で酔い潰れるまで付き合ってほしい、自分の感情を麻痺させたい、現実を忘れたいという切実な願いを込めて懇願するのだ。 この曲は一夜の出会いの甘さと切なさ、そしてその裏に潜む虚しさを描いた曲で、その場のロマンチックな雰囲気と、女性の感情的な防御反応を同時に表している。物語は甘いムードから始まるが、酔いから冷めた翌朝にはこんなショートメッセージが届く「I’m getting back together with my old fiancé. I’m sorry, by the way.(やっぱり前の婚約者とやり直すよ、とにかくゴメンね)」この一文で、前夜の親密さが一瞬で幻だったことが明らかになり、まさにホリー・ゴライトリーのように、自由を求めながらも誰かに寄り添いたいという矛盾した感情が浮き彫りになる瞬間だ。まさにDavid Gedge節の代表的な1曲だと思う。余談だが、ここで聞こえる東京で買ったおもちゃとは「たまごっち」のこと。2009年に実に16年ぶり2回目となるジャパン・ツアーが行われているが、その時ではなく、アルバム『El Rey』前年の2007年にプライベートで旅行した時に購入したようだ。よってここでのDavidのコメントは単純な記憶違いではないかと思われる。
(補足) タイトルはハンナ=バーベラのアニメ『ヨギ・ベア』に登場するBoo-Boo Bearから取られているが、歌詞の中では直接的なキャラクターの意味合いはなく、むしろ甘くて切ないニックネームとして機能しており、かつての恋人に対する親しみと痛みを込めた呼び名として使われる。 “You just don’t get it at all, do you? Boo Boo!”
“The reason I call is that I still love you”
語り手は、別れた相手と久しぶりに会い、楽しい時間を過ごしながらも、相手が別の人と付き合っている現実に苦しんでいる。
それでも「会えないよりはマシ」と自分に言い聞かせながら、未練と愛情を抑えきれずに“Boo Boo”と呼びかけるのだ。
35. Deer Caught in the Headlights(2012年3月19日リリース) この曲は、Wedding Present史上最もラウドでロックな仕上がりになってると思う。だからこそ、コントラストをつけるために、最後にはギタリストのグレアム・ラムジーがフランスのSegré-en-Anjou BleuにあるBlack Boxスタジオの外でハーモニウムを弾いてる、穏やかな録音を編集で加えたんだ。
ライブでこの曲を演奏し始めた頃、静かなパートでは“If I was a painter, I’d just paint portraits of you”って歌ってたんだけど、当時のマーチャンダイザーだったドーンが“wasじゃなくてwereでしょ”って指摘してくれてね。確かに文法的にはその通りだった。
(補足) ここで"If I were"としているのは、仮定法過去型だから。現実とは異なる仮定や空想を表すときに使う文法で、この場合「私は画家ではないけれど、もし画家だったら…」という非現実的な仮定を表している。ちなみに日本で初めてこの曲が披露された2010年5月7日のライヴではまだ"If I was~"で歌われていた。その模様は翌年日本限定でリリースされた2枚組ライヴ作『BIZARRO : LIVE IN TOKYO, 2010』で聴くことができる。
36. Two Bridges
(2016年9月2日リリース) この曲は2013年にシングルとして初めてリリースされたんだけど、『Going, Going…』のアルバム用に再録音したんだ。「Corduroy」のときと同じように、アルバム全体の流れから浮かないようにしたかったんだよね。
それに、フランスのサン=レミ=ド=プロヴァンスにあるStudios De La Fabriqueの巨大なライブ・ルームで、アンドリュー・シェプスが作り出した音響を活かしたかったっていうのもある。
出典情報: Scopitones Recordsよりリリースされたアルバム『Going, Going…』収録。初期バージョンはシングル「Two Bridges」に収録。録音・プロデュース:アンドリュー・シェプス & The Wedding Present。
37. Rachel
(2016年9月2日リリース) 『Going, Going…』のレコーディングは国際的なプロジェクトだったよ。フランスのStudios De La Fabriqueを使っただけじゃなくて、ワシントン州シアトルのCrackle And Popスタジオでも録音したんだ。特に“Rachel”のストリングス・セクションは、そこで録ったものが曲を豊かにしてくれてる。
それから、昔『The Hit Parade』シリーズを録音したリヴァプールのスタジオにも戻ったんだけど、そこは1992年にはAmazonスタジオって呼ばれてて、2016年にはParr Streetスタジオになってた。今はもう閉鎖されちゃったけどね。
出典情報: Scopitones Recordsよりリリースされたアルバム『Going, Going…』収録。初期バージョンはシングル「Two Bridges」に収録。録音・プロデュース:アンドリュー・シェプス & The Wedding Present。
(補足) フィリップ・ラーキンの詩「Going, Going」(1972年)は、イギリスの田園風景が失われていくことへの嘆きと、消費社会・都市化への鋭い批判を込めた作品。もともとはイギリス政府の環境省(Department of the Environment)から依頼された詩で、報告書『How Do You Want To Live?』の序文として書かれた 。
詩は、「イギリスの田舎は永遠に残るだろう」と信じていた語り手が、徐々にその信念を失っていく過程を描く。
冒頭では、のどかな風景や自然の美しさが語られるが、次第にコンクリート、廃棄物、騒音、広告、そして乱開発がそれを侵食していく様子が描かれる。
最後には、「すべてが売り払われてしまう」という諦念と怒りが込められた結末へと至る。
タイトルは競売人の掛け声「Going, going, gone!(さあ、売れますよ、売れますよ、はい、落札!)」から来ているが、
詩では「Gone」まで言わずに止めており、「まだ間に合うかもしれない」というかすかな希望や、破壊が進行中であることへの警鐘を暗示している。
David Gedge がアルバム『Going, Going…』にこの詩のタイトルを引用したのは、「失われていくもの」への哀愁や、時間と場所の移ろいをテーマにした作品群にぴったりだったからだと考えられる。
アルバムの各曲がアメリカの地名を冠しているのも、風景と記憶、変化と喪失をめぐる旅のような構成になっており、ラーキンの詩と響き合っている。
38. I Am Not Going To Fall In Love With You
(2023年5月19日リリース) ソングライターって、普通は常に新しいアイデアを追い求めたくなるものなんだけど、この曲に関してはそんな幻想は持ってないよ。
「I Am Not Going To Fall In Love With You」には、The Wedding Presentらしさがしっかりと染み込んでる。この曲はジョン・スチュワートとの共作で、彼はSleeperのギタリストでもあるし、大学時代にThe Wedding Presentのファンだったんだよね(ちょうど僕らがRCAにいた頃)。
彼がこの曲を思いついたときは、まるで『Bizarro』と『The Hit Parade』のエッセンスを蒸留したボトルを飲んでたみたいだったよ。
出典情報: CLUE Recordsよりリリースされたコンピレーション・アルバム『24 Songs』収録。初期バージョンはシングル「I Am Not Going To Fall In Love With You」に収録。録音:トビアス・メイ。プロデュース:トビアス・メイ & The Wedding Present。
出典情報: CLUE Recordsよりリリースされたコンピレーション・アルバム『24 Songs』収録。初期バージョンはシングル「Science Fiction」に収録。録音:トビアス・メイ。プロデュース:トビアス・メイ & The Wedding Present。
(補足) 「Science Fiction」は、失恋の痛みと現実逃避の願望を、SF的なイメージを通して描いた曲。タイトルの“S.F.”(=Science Fiction)は、空想の世界に逃げ込みたいという感情の象徴として使われている。
曲は、宇宙人が地球に降り立つという夢のような場面から始まる。
“Aliens have landed / I don’t know what they’ve demanded / but the Earth will never be the same again”
しかしその後、語り手は目を覚まし、世界は昨日と何も変わっていないことに気づく。
宇宙人の侵略やコンピューターによる支配など、SF映画のような非現実的なイメージが登場する一方、現実では恋人と別れたまま、毎日名前を呼び続けてしまうほど未練が残っている。
“We broke up but I still call your name, like I do every day”(僕らは別れたけど、毎日のように君の名を呼んでしまう) このストーリーこそが本シリーズでも特にこの楽曲が人気を集めている理由でもある。
40. Hot Wheels
(2025年12月5日リリース) この曲は、(執筆時点ではまだリリース前の)『MAXI EP』からの収録曲。レコーディングでは、トビアス・メイと一緒にMetwayスタジオに戻ったんだけど、ブライトン近郊のPortsladeにあるSalvation Music Studiosも使ったんだ。
針が溝に触れた瞬間、まるで旋風がターンテーブルから瞬時に舞い上がり、ペトゥラ・クラークの「ダウンタウン」を破壊しに飛び去っていくかのような音が響いた。その渦中には無数の音楽が渦巻いていた——ポストパンク、ノイズロック、熱狂的なガレージポップ、かすかなゴシック、そして原始的なインディーポップ。それは「Go Out And Get 'Em, Boy!」と題された4分間の爽快なローファイ・ロックであり、その核心には唯一無二の存在感が宿っていた。デイヴィッド・ルイス・ゲッジは、情熱的で無垢な、そして反抗的なほど北国風の声で、感情の渦に息も絶え絶えになりながら、右腕が燃えているかのように狂ったようにギターを掻き鳴らし、唸るような歌声で人生の意図を歌い上げた:
バンドが「これが最初で最後のリリースになるかもしれない」と思っていた可能性すらある中で、デビュー・シングルのA面「Go Out And Get ’Em, Boy!」は、フックとアイデア、そして狂騒的なエネルギーがぎっしり詰まった一曲だった。
デヴィッドが政治的なテーマに触れた数少ない楽曲のひとつで、フォークランド紛争に触発された部分もある。
バンドはその後も、息つく暇もない勢いで自主制作の7インチを連発。
「Once More」や「You Should Always Keep In Touch With Your Friends」などがその代表だが、Peelセッションの音源も同じくらい魅力的で、むしろそのスピード感と荒削りさが良さを引き立てていたと言える。
1987
GEORGE BEST
The Wedding Presentのサウンドは、荒々しく制御不能なエネルギーの塊だった。それは、The Smithsが広めた“キッチン・シンク”型のオルタナティブな倦怠感を凝縮したようなもので、ローファイの稲妻のような衝撃を放っていた――瓶詰めにして保存したくなるほどに。
だが、このアルバムには若き恋愛の未熟なねじれがいくつも詰まっている。
「Everyone Thinks He Looks Daft」や「Give My Love To Kevin」では、投げやりな態度の裏に薄く隠された苦々しい憤りが描かれ、
「Anyone Can Make A Mistake」では、一夜の過ちの後悔が滲み出る。
そして「A Million Miles」では、新しい恋人と家路を歩く歓喜――腕には夢、足元には世界が広がっている。
たとえば1988年にリリースされたEP「Nobody’s Twisting Your Arm」や「Why Are You Being So Reasonable Now?」では、
バンドの持ち味であるメロディと疾走感はそのままに、アメリカのプレ・グランジ・シーンの“筋肉質な荒々しさ”を取り入れていた。
まるでDinosaur Jr.が、明るい英国インディ・ポップの世界で副業しているかのようなサウンドだった。
このセッション音源をまとめたコンピレーション『УКРАЇНСЬКІ ВИСТУПИ В ІВАНА ПІЛА(UKRAINIAN JOHN PEEL SESSIONS)』が、メジャーレーベルRCAと契約後に初めてリリースされたアルバムとなったことは、
このバンドがいかに妥協を許さず、定型にとらわれず、芸術性を最優先していたかを如実に物語っている。
The Wedding PresentがRCAと契約して初めてリリースしたメジャー・アルバム『BIZARRO』(1989年)は、オルタナティヴ・ギター・ロックが持つ催眠的で包み込むような可能性を探る試みだった。
タイトルは、DCコミックスのスーパーヴィラン“Bizarro”に由来しており、Davidが古典的なコミックやパルプ文化を愛していることの初期の兆候でもある。
Cineramaは、50年代から70年代のポップ音楽への僕の愛情と、
John BarryやEnnio Morriconeみたいな映画音楽の作曲家たちへの憧れをベースにしてる。
The Wedding Presentをポップと映画的オーケストレーションの世界に引きずり込むのは違うと思ったから、
ひとりでやることにしたんだ。
そして、本当に楽しかったから、そこから8年間続けたんだよ。」
The Wedding Presentは、ほぼ10年もの間、封印されたままだった。
しかしその間にリリースされた3枚のスタジオ・アルバム――
『VA VA VOOM』(1998年)、『DISCO VOLANTE』(2000年)、『TORINO』(2002年)――では、
Cineramaの“銀幕的な音像”に、ギター・ロックの兆しが徐々に芽吹き始めていた。
「Mars Sparkles Down On Me」や、感動的なフィナーレ「Perfect Blue」では、
室内楽的なストリングスと、デイヴィッド・リンチ映画のようなギターの揺らぎが響き渡る。
「Don’t Touch That Dial」や「Larry’s」では、
静けさと炎を併せ持つポスト・ロックの気配に、プロム向けのメロディが織り込まれ、
Morricone風のタッチも随所に散りばめられている。
唯一、快活な「I’m From Further North Than You」だけが、かつて「A Million Miles」を作ったバンドの面影を残していた。
「Cineramaはどんどんギター寄りになっていったんだ。
ポップよりロックになって、強化版Wedding Presentみたいな感じになってきてた」と、Davidは語る。
謎めいた間奏が散りばめられ、どこかフィルム・ノワール的な空気を帯びたこのアルバムでは、
Albiniの簡素で密度の高い美学が、Davidのクラシックなオルタナ・ポップ楽曲――
「Santa Ana Winds」「Spider-Man On Hollywood」「Don’t Take Me Home Until I’m Drunk」――に魔法をかけている。
一方で、『TAKE FOUNTAIN』のワイドスクリーン的アプローチの粒子も残っており、
優美な「I Lost The Monkey」、陰鬱な「The Trouble With Men」、
そしてZiggy風味の「Boo Boo」にその痕跡が見られる。
空を見上げよう(Watch the skies indeed...)――まさにそんな作品だった。
〔訳注:「Watch the skies indeed…」というフレーズは、ここではネバダ州Rachelという町がエリア51の近くに位置していることと密接に関連している。もともと1951年のSF映画『The Thing from Another World(遊星よりの物体X)』のラストで使われたセリフ「Keep watching the skies!」に由来し、UFOや異星人の存在を期待するニュアンスを含んでいる。〕
「I Am Not Going To Fall In Love With You」「Memento Mori」「We Interrupt Our Programme」といった活気あるナンバーが幕開けを飾り、
1980年代への最も愛情深いフラッシュバックのように響く。
この構成は、シングルというフォーマットがバンドの貪欲なポップ感覚を再び研ぎ澄ませたことを示している。
続いて、「Each Time You Open Your Eyes」「Monochrome」「Science Fiction」では、
痛切な内省の時間が訪れ、哀愁を帯びたポップの嘆きが、心を打つロックの爆発へと昇華していく。
そして後半では、「Kerplunk!」「Astronomic」「La La La」といった楽曲が、
傷つきながらも前向きな救済の光を差し込んでくれる。
遊び心と実験精神の余地も、たっぷりと用意されていた。
MagazineやSleeperの曲を歓喜に満ちたカバーで披露――
後者「We Should Be Together』では、オリジナル・シンガーLouise Wenerとのデュエットが実現。
「Don’t Give Up Without A Fight」では、こんなチャント(掛け声)も飛び出す:
「ツー・フォー・シックス・エイト、誰を讃えるべきだって?!」
「Telemark」は、ノルウェーの小石浜で恋が芽生える様子を語るスポークン・ワード作品。
そして「We All Came From The Sea」では、なんとサイケデリック・ディスコ・ロックの領域にまで踏み込んでいる。