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EL REY
TITLE: EL REY (LP)

RELEASE DATE: May 20th, 2008 (U.S./Canada), May 26th, 2008 (Rest of the World), November 16th, 2009 (Scopitones' reissue)
LABEL: Manifesto (U.S./Canada), Vibrant (Rest of the World), Scopitones (reissue)
CATALOGUE No: Manifesto - MFO43904 , Vibrant - VIBCD01 (CD) VIBLP01 (VINYL), Scopitones - TONE CD 029 (CD)


収録曲目(Tracklisting/Writing credit)  
  1. Santa Ana Winds (de Castro/Gedge)
  2. Spider-man On Hollywood (McConville/Gedge)
  3. I Lost The Monkey (Gedge/Cleave)
  4. Soup (Ramsay/Gedge)
  5. Palisades (de Castro/Gedge)
  6. The Trouble With Men (Ramsay/Gedge)
  7. Model, Actress, Whatever... (de Castro/Gedge)
  8. Don't Take Me Home Until I'm Drunk (McConville/Gedge)
  9. The Thing I Like Best About Him Is His Girlfriend [Santa Monica And La Brea Version] (de Castro/Gedge)
  10. Boo Boo (de Castro/Gedge)
  11. Swingers (Gedge/Cleave)
  12. Back for Good  *iTunes Store exclusive bonus track (Barlow)


作品概要/解説  

ザ・ウェディング・プレゼント(以下通称のTWPとして表記)名義のスタジオ・アルバムとしては通算8作目となる本作は後期シネラマからの改名後初のアルバムとなった『TAKE FOUNTAIN』から約3年3ヶ月ぶりとなる2008年5月リリース。イギリスとヨーロッパ、その他の国では新興のインディーズ・レーベルVibrantからの発売。このレーベルは元RCAと元Sanctuaryという、いずれもTWP/CINERAMAの歴史に深い縁のあるレーベルに所属していたスタッフが中心となって作られたもので、ABCのアルバムと共にVibrantの第一弾リリースとして選ばれたのが本作である。北米とカナダでは以前と変わらずカリフォルニアを拠点とするManifestoからの発売。ちなみにそのManifesto盤は5/20、Vibrant盤は5/26と、わずか1週間足らずの話ではあるが、TWP名義のアルバムとしてはその長いバンドの歴史上、初めて北米/カナダで先行リリースされたアルバムとなった。
【追記2009/11/8】
その後、ディストリビューターの倒産に伴ってVibrantが消滅したため、廃盤の危機に晒された事から、2009年11月に自身のScopitonesレーベルから再発された

今回のアルバムは2008年1月にシカゴのElectrical Audioスタジオでスティーヴ・アルビニをエンジニアに迎えて制作された。1週間で17曲が録音されるというハイペースで制作は進行し、その後別のスタジオでの追加作業を経て、最終的に11曲がこのアルバムに収録された。デイヴィッド・ゲッジとスティーヴ・アルビニとのチームはCINERAMA時代の2002年作『TORINO』以来約6年ぶりとなり、TWP名義の作品では1991年の金字塔的傑作『SEAMONSTERS』以来約17年ぶり。本作でアルバム単位では4枚目の仕事となるが、レコーディングのプロセス上、CINERAMAでの2作品(『DISCO VOLANTE』『TORINO』)ではバンド部分のベーシック・レコーディングのみの関与となる事は当サイト訳出のレポートでも細かく解説されている通りで、録音からミックスダウンまでSteve Albiniが行ったアルバム、という意味では、これまた『SEAMONSTERS』以来の事となる。しかし、改めて言うまでもないし至極当然の事だが、その事実が本作品の方向性を決定づけてはいない。半数以上はここ数年のライヴの現場で披露されていた楽曲であり、そのライヴ時とほぼ寸分違わぬアレンジでここに収録されている事からも容易にお分かり頂けると思うが、『TAKE FOUNTAIN』同様、いや、CINERAMAの『DISCO VOLANTE』以降のアルバム全てがそうだが、音楽的/楽想的な着地点ははっきりと見えていた状態で録音に臨んでいる。その音をライヴでの再現性が高い「理想的な形」で記録するのに選ばれたのが『TAKE FOUNTAIN』でも一部収録されたElectrical Audioスタジオであり、その介添人が今回はスティーヴ・アルビニであった。『SEAMONSTERS』と本作を音楽的に直接比較する事はこの17年間に、両者が辿って来た歴史と作品を考えればナンセンス以外の何ものでも無いが、その相性の良さは疑う余地はないし、制作プロセスの図式だけは17年前のあのアルバムとほとんど変わらない...作品を「プロデュースする=産み出す」作業をしたのはデイヴィッド・ゲッジとそのバンドであり、エンジニアリング=音響技師がスティーヴ・アルビニであったという事である。それはメンバー全員の連名の次にスティーヴ・アルビニの名前が記載されたプロデューサー・クレジットにも象徴されている。
いずれにしろ、楽曲の構造的にはそのメロディの傾向と歌詞の構成(テリー・ディ・カストロのヴォーカルを多用した場面も多い)も含め、明確にCINERAMA以降の作風を踏襲しており、前作まで顕著であったオーケストレーションを考慮しない代わりに、この3年間の過酷なツアーサーキットの日々(...前任のギターリストであったサイモン・クリーヴは過労のため病院に担ぎ込まれた事件などもあり、3年間で英・北米・カナダ・欧州を繰り返し回った250近いその公演数は、大物バンドの様に自家用ジェットや専用のツアーバスなどはもちろん無く、自ら楽器の積み降ろしと北米では会場間の移動中のバンの運転までしなければならない小規模なインディー・バンドにとっては“過酷”と表現するのが相応しい)の成果が反映された、逞しい「バンド・サウンド」「エレクトリック・ギター・サウンド」を前面に打ち出した作品になっている。

本当に久しぶりに、その激しいライヴと同等の、4ピース・バンドが一丸となってドライヴする感覚が音盤上に鮮明に記録されている事が何よりも嬉しいし、それこそがスティーヴ・アルビニを再登用し、Electrical Audioを記録する現場に選んだ最大のポイントと言っていいだろう。そのフル・アナログ・レコーディングに拘ったElectrical Audio録音作品ならではの“部屋鳴り”をよりじっくりと体感したいファンのために、今回は500枚限定生産のヴァイナルLP(ちなみに180gの重量盤)も同時発売された。TWP/CINERAMAのアルバムでヴァイナル盤が発売されたのはやはりスティーヴ・アルビニが関与した『DISCO VOLANTE』以来約8年ぶりという事になる。ヴォリュームを上げても決してピーキーな感覚にはならない、各楽器がノーブルに響いてくる感触さえある、このデリケートだが迫力のあるサウンドは確かにアナログ盤向きだ。ノイジーなエレクトリック・ギターがレイヤー状態で目前に迫って来る様な強烈なシークエンスは言うまでも無いが、マレットを使ったドラム・プレイが聴ける"The Trouble With Men"あたりのアクースティックな響きもぜひともアナログ盤で体験して欲しい。
一方で、今作品に関してはTWPが遅ればせながらデジタル配信に積極的に踏み出した1作でもあり、先行シングルの「The Thing I Like Best About Him Is His Girlfriend」は初めてパッケージ販売されない、ダウンロード販売限定のデジタル・シングルとして発売されている。個人的には過去の『THE HIT PARADE』シリーズなどの前例もあり、デイヴィッド・ゲッジのシングルというフォーマットに対するある種のフェティシズムにも近い拘りはファンとして敬愛すべきもので、カップリングも含め、パッケージとして完成度の高いものにしていく姿勢を感じていたので、表題曲のリミックスとアレンジ違いだけをおざなり程度に収録したそのデジタル・シングルの販売はやや意外でもあったし、もっと言うなら多少失望さえした。しかし、現在のTWPの様なインディー・ベースの活動をしているバンドにとってはプロジェクト全体の制作コストも抑えられ(これが新興インディーズ・レーベルVibrantの第一弾作品だという事実を考え合わせても)、今の時代に最適化された流通形態なのだろう。日頃からデジタルを徹底的に唾棄するスティーヴ・アルビニにとっては容認しがたい事だとは思うが。
そんなスティーヴ・アルビニではなくても許しがたいだろう悲しい出来事もあった。何者かの手によって、プロモーションで配布されたと思しき本作のCD-Rからリッピングして、アルバム発売よりも随分前からネット上で無断でダウンロード出来る状態にしていた非常識なリーク行為が行われた事だ。確かにRadioheadやNine Inch Nailsのケースの様にオフィシャルな形でユーザーに無料で新作をダウンロードさせる様な機会は増えてきた。一般ユーザーがBitTorrentなどで大容量のデータをやり取りしやすい環境も整ってはいるが、しかしパッケージで販売される事が既に決まっている発売前の新譜の音源を、しかも現在のTWPの様な、何度もこう表現するのには躊躇してしまうが、小規模なインディー・バンドの作品に対して行う事はどう考えても許されざるマナー違反だし、それによって被る経済的な損害も少なくないはずだ。実際、この作品はイギリスに於いては、発売1週目でアルバム・チャートのTOP 100にも入らず、インディーズ・チャートで12位初登場、という記録であり、これは前作『TAKE FOUNTAIN』での初登場68位、インディーズ・チャート初登場7位という結果よりも下回っている。一概にこの違法ダウンロードだけが原因とは言わない(何しろ、前作からは8年ぶりとなるTOP 40シングルだって生まれているのだから)が、代表的な音楽メディアでの評価も前作以上に高く、売り上げダウンに関して何かしらの影響はあったと思わざるを得ない。ちなみにVibrantとデジタル・ディストリビューションを受け持つIODA=INDEPENDENT ONLINE DISTRIBUTION ALLIANCEは既に最初の送信者を突き止めており、法的措置を進めているとの事だ。

タイトルについて解説しておくと、『EL REY』は直訳すればスペイン語で「THE KING」=王という意味であるが、これはその文字通りの意味と言うより、デイヴィッド得意の語感が鍵になっている。本人が公言している通りで、本来は『LA』と名付けたかった様である。よく知られている通り、前作『TAKE FOUNTAIN』は通称“シアトル・アルバム”と呼ばれている...CINERAMA開始当初の一翼を担ってもいたSally Murrellとの別離後、故郷リーズを離れ、アルバムの製作期間中に拠点としてたシアトルに関連するキーワードが歌詞やタイトル、アルバムのアートワークなど作品のそこかしこに登場していた。それに対して今回は“LA・アルバム”...新しい恋人の故郷でもあるシアトルから「今回は違う場所で曲を書いてみたかった。ベーシストのTerry De Castroも10年以上LAに暮らしていたし、彼女とももっと曲を一緒に書けるからね。そこにあるポップ・カルチャーにも魅了されていたし。」(DAVID談)という理由から移り住んだロサンジェルス近くのウェスト・ハリウッドに暮らしていた日々からインスピレーションを受けた要素がここにはある。タイトルや歌詞の一節にはLAにまつわる固有名詞が多数登場するし、音楽的にも元々そのエッセンスは以前から表れていたとは言え、ほとんどのレコーディングを北米の都市で行ってきたCINERAMA後期以降の作品でさえも引き続きイギリスのバンドとしての出自は感じられたのだが、ますます今様のU.S.インディー・ギター・バンドの新作の様な佇まいになってはいないだろうか(細かく言えば、発音もライヴの時には時折感じられるイギリス北部っぽいアクセントをこれまで以上に排しているようなフシもある)。言葉遊びに取られるこの『EL REY』にしてもLAに実在するシアターやモーテルの名前でもあり、アートワークも前作同様に、徹底してそのアルバム収録曲が作られた街に関連するものが使用されており、例えばこのアルバム・ジャケットに使用されているのはハリウッドのウェスト・サンセットに位置するStudio Inn/Hollywood Suitesというホテルである。個人的にあまり長期で滞在した経験は無いし訪れた季節も異なるのだが、『TAKE FOUNTAIN』とこの『EL REY』という作品からはシアトルとロサンジェルスという街を訪れた時の、あるいは街中を車でドライヴしている時かもしれないが、彼の地の空気を感じるところは確かにある。それぞれのアルバムにその街を通るストリートに関連した曲名が入っている事もその個人的な印象を深めている(前作のオープニングは"On Ramp"というハイウェイの入り口そのものを表す曲名のインストでもあった)。
さらに個人的な印象にはなるが、歌詞を読み進めるうちに思い出したのが、STEVE MARTINが主演していた映画『L.A. Story』でもあった。L.A.を舞台にしたラヴ・ストーリーという意味合いでもそうだが、物語上重要なキーワードを握る看板の風景はこのアルバム・ジャケットの雰囲気にそっくりだ。レンタル屋さんにも並んでいると思うので、機会があったら一度ご覧頂ければと思う。

その他のアートワークでもう1つ印象に残るであろうものに、CDトレイのインレイとLP盤の中央ラベルに写っている大きなウサギがあるが、これはあまり本作のストーリーとL.A.には直接的な関連性は無い。昨年10月に行われた『George Best』発売20周年記念ツアーの際に、『GEORGE BEST』をLP盤の曲順通りに再現するパートがあり、その時に再現パートへのカウントダウンを行ったのがこの大きなウサギだったのだ(参考映像)。これは現在のバンドのローディー・スタッフでもあり、デイヴィッド・ゲッジのプライベートでのパートナーであるジェシカ・マクミランが着ている。彼女との関係が本作の成り立ちに何かしらの影響を及ぼしているのは間違いなく、その暗喩として登場させたのがこのウサギ...と推測するのは、些か下衆の勘繰りが過ぎるだろうか?他にも彼女の名前はこのアルバム・ジャケットやブックレット内の写真の撮影者として本作にはクレジットされている(余談だが、二人は昨年2007年5月に観光旅行で日本に訪れ、京都や東京を観光している)。
このウサギ、今後発売予定のTWPのライヴDVDソフトの映像でも登場するはずなので覚えておくといいだろう。ちなみにこの着ぐるみ自体は2008年5月30日にイギリスでのデイヴィッドの拠点であるブライトンで行われた本作の発売記念パーティーにおいてオークションにかけられた。

バンドの現在のラインナップの新しいメンバーについても触れておくと、今のTWPに新たにソリッドな感覚を持ち込んだギターリストはクリストファー(デイヴィッドのライヴのMCではもっぱらクリスと呼ばれている)・マッコンヴィル。2005年暮れのツアーを最後に脱退した、デイヴィッド・ゲッジにとっては重要なソングライティングのパートナーでもあったサイモン・クリーヴ脱退後のツアーから加入したスコットランド出身のメンバーで、元々はTWPのツアーでサウンド・エンジニアとして帯同していたスタッフだった。2005年11月のロンドンでのライヴCD『Shepherd's Bush Welcomes The Wedding Present』の収録された夜のPA卓の後ろにいたのが彼である(その名前はCD/DVDともにクレジットされている)。TWPの長い歴史上では意外にも初めて、フェンダー・テレキャスターをメインギターに使っている。本作は過去のTWP/CINERAMAの作品にもあまり類例がないようなアルペイジオの印象的なフレーズで始まる曲も多いが、繊細なフレージングも、ノイジーなトーンで繰り出されるコード・ストロークも得意としていて、才能と閃きが感じられる彼のプレイが担うものはこの『EL REY』では本当に大きい。ぜひともライヴでそのプレイを体感して頂きたい。それにしても、初めてのバンドがこのTWPだったとはとても思えない、素晴らしいギターリストだ。
ドラマーは彼の友人であったやはりスコットランド出身のグラエム・ラムゼイ(これにより、テリー・ディ・カストロも含め、現在のTWPは4分の3がスコティッシュのミュージシャンで構成されている事になる)。
ところで、TWPというバンドは常にそのリズム面、言い換えればサイモン・スミスという気違いとしか言いようがないほどの圧倒的なプレイが特徴となっていた楽曲があまりに多かった事に、2005年以降の再生後のツアーで多くのファンは嫌というほど思い知らされた訳だが、この3年間でツアー・ドラマーはグラエムも含め、4人が入れ替わっている。それぞれがステディなプレイヤーではあったのだが、誰も"Corduroy"や"Blue Eyes"、"Brassneck"や"Dalliance"、"Montreal"の様なミッド・テンポの曲でも、一見シンプルな様でリズムキープをしながらあの訳の分からない手数の多いユニークなドラミングを、そのニュアンスに富んだプレイを再現する事は不可能であった。それは、オリジナル・ベーシスト、キース・グレゴリーの独創的なベース・ラインも同様で、あの旧TWP全盛時代の作品の希有な空気感(バンド・グルーヴ感と表現してもいい)はそのギター・アンサンブル以上にあの異常な、しかし精巧なタイム感と共に叩き出されるドラム・パートと時にリード・ギター以上に雄弁なラインを生み出すベースがもたらしていたものはあまりに大き過ぎたのだと思う。
参考までに、今回のラインアップによるものではないが、前述した2005年11月のロンドンでのライヴを収録した『Shepherd's Bush Welcomes The Wedding Present』を聴いてみるといい。アレンジが刷新された"Crushed"などに顕著だが、旧TWP時代の圧倒的なグルーヴ感が減退し、ただのポップでストレートな8ビートを演奏するロック・バンドにさえ聞こえる瞬間が多々ある。

しかし、今のTWPにとってはその状況までもが結果的にはプラスに転じたとも思えるのだ。人材的にも次々に新しい血を入れて積極的な新陳代謝が計られた結果、かつてのTWPの楽曲が装いも新たに、現代のロック・ソングとして提示されたここ数年のツアーは本当に心から楽しめるものだったし、先の『Shepherd's Bush...』にしても不足点を補って余り有るハッピーな高揚感に溢れている。
サイモン・スミスとキース・グレゴリーのコンビ...TWP史上だけではなく、英ロック・シーン有数の鉄壁のコンビネーションを誇る優れたリズム隊は確かにTWPサウンドの重要な鍵であったが、仮に同じメンバーが寄り集まったリユニオンだったとしても、(元メンバーの年齢的な事を考え合わせても)ここでの軽妙でキレの良いバンド・サウンドに拮抗するだけのものが作れたかどうかは甚だ疑問である。やはり、現役でライヴ・バンドとして過ごして来た事の経験値に勝るものはなかなか無い。
また、この3年間のツアーで後半に行くに従って徐々に初期のレパートリー、つまりオリジナル・ドラマーでシンプルなプレイを身上としていたショーン・シャーマン在籍時の楽曲がライヴで頻繁に登場する様になった事も現在のバンドにとって良い方向に作用したはずで、前述した様に2007年10月には発売20周年を記念した、言ってみればファン・サービスに徹したものではあったが『GEORGE BEST』全曲をLPの曲順通りに再現するツアーまで行われた。結果として「ただひたすらテンポが早めで、楽曲の構造がわりと平易な」初期作品を繰り返し演奏し続けてきた事で、シンプルなギター・ロック・アンサンブルの享楽的な楽しさも再び見いだしたのではないか。グラエムが世代的にデイヴィッドとは一回り以上違う事も大きく影響しているだろうが、過去のTWP作品の強力な特色となっていた全盛時代のリズム隊の影響下から逃れた、本作『EL REY』にあるフレッシュな感覚はプレイヤーとしてではなく、アレンジ面から様々なアイデアを持ち込んだグラエムの存在がもたらしたものも大きい。"Soup"はもちろん、"Spider-man on Hollywood"のキャッチーさと軽やかさは単純な原点回帰だけでは片付けられない、そういったツアー・サーキットの中で模索してきた今のバンド・サウンドを反映したものだと言っていい。
ちなみにグラエムは自らソングライティングにも参加し、先行シングルとなった"The Thing..."のカップリングでは同曲のリミックスも手がけている。

それにしても、ダークでエッヂの効いたギター・リフもふんだんに聴かせる場面もあるのだが、聴き進める毎にそのサウンドから明るい開放的なエナジーが伝わって来る作品である。思えば『TAKE FOUNTAIN』は実際に届けられた作品の質的にもその制作の実情から言っても、新生TWPの第一作でありながらCINERAMAのエンドロール的な作品であった。実生活の失恋にインスピレーションを得た詞作はかつて無いほどに切ない心象風景を映し出し、それに呼応する様に関連作品のジャケット写真もくすんだ色彩の風景写真が使用されていた。音楽的な完成度の高さは今聞き直しても非の打ち所は無い。キャリアの記念すべき20年目に出すのにこれほど相応しい傑作は無い、という当時の確信は未だ揺らぐ事はない。しかしこの『EL REY』は出発点からして違う。『TAKE FOUNTAIN』以降の激しいライヴ・サーキットを過ごして来たザ・ウェディング・プレゼントという生粋のライヴ・バンドがザ・ウェディング・プレゼントの新作として作り上げた作品なのだ。『TAKE FOUNTAIN』に漂っていた、ある季節の終焉を感じさせる詩情と寂寥に対し、ここにあるのは新しい季節の到来を歓迎するかの様な、わくわくとする様な何か...それはまさに、LAという街に漂う奇妙な、熱に浮かされた様な高揚感に近しいと私は感じた。
いくつかの変化の段階を経てきたこの複雑かつ希有な個性を持つロック・バンド、TWPの“今”がこれ以上無い形で『EL REY』には刻まれている。2008年で48歳を迎えたデイヴィッド・ゲッジとデビュー/結成23年目を迎えたTWPにとっての新たなフェイズは、この『EL REY』という新しい傑作によって力強く幕を明けた。

曲目解説  

1. Santa Ana Winds
ハモンド・オルガンとメロトロンで作られたモールス信号の様なノイズから始まり、やがてエレクトリック・ギターの重たいリフによって幕が切って落とされる。曲名は、南カリフォルニアでは晩秋から冬にかけて吹くという熱風の名前から取られている。去年2007年10月にカリフォルニア州南部で起きた大規模な山火事(これによりほぼ東京都の面積分の森林が消失した)はその熱風が主な原因となっており、CNNやABCの気象ニュースなどでも当時よく見かけた単語であった。LA周辺で生活していたデイヴィッド(テレビの様々な事象からインスピレーションを得たテーマの歌詞は旧TWP時代からも数多い)も当然そういう所からこのタイトルを思いついただろう事は想像に難くない。不謹慎な喩えで恐縮だが、この緊迫感溢れるイントロはまさに焔がメラメラを燃え上がる様を想起させるものがある。アルバム全体のトーンを決定づけた、オープニング・トラックに相応しいナンバーだと思う。デイヴィッド・ゲッジとテリー・ディ・カストロの共作。ちなみにテリー・ディ・カストロもまたLA在住のミュージシャンである。

2. Spider-man On Hollywood
昨年2007年10月に行われた『GEORGE BEST』発売20周年記念ツアー(通称「GB20ツアー」)で初登場した、デイヴィッド・ゲッジと新加入のギターリスト、クリス・マッコンヴィルの共作。そのツアー時にはシンプルに「Spiderman」というタイトルであった(YouTube上のライヴ音源はこちら)。イントロから繰り出されるジャングリーなギター・サウンドが印象的なこの楽曲の基本構成は、ツアー・サーキットの日々でTWP初期のレパートリーにバンドが触発される形で生まれたものだと思う。コード進行的に『THE HIT PARADE』シリーズの「California」をどうしても思い出してしまうが、実際その歌詞も「California」にあったようなナンセンスなフレーズを多用していて、本作中最もファニーな感覚がある。
エンディングにはグラエムがスネアとフロアタムを試し打ちしている様な短いフレーズで構成されたインタールードを挿入し、全体の昂揚したリズム感を一旦次曲へ上手くつなげられるようにクールダウンしているが、スティーヴ・アルビニ録音独特の部屋鳴り感が感じられる一瞬である。

3. I Lost The Monkey
本作には2曲、前任のギターリストであり、CINERAMA後期からデイヴィッド・ゲッジのソングライティング・パートナーとして重要な役割を担ってきたサイモン・クリーヴが共作したナンバーが含まれるが、その2曲とも面白いくらいにシネラマ的な響きのある楽曲に仕上がっている。まずこの"I Lost The Monkey"は『TAKE FOUNTAIN』以降で初めて書かれた楽曲の1つ。一昨年2006年秋のツアーで初披露。アレンジはその時からほとんど変わっていないが、2007年3月に『The Complete Peel Sessions』発売記念で行われた英ヨークシャーでのショート・ツアーからの映像でもご確認頂ける通り、このツアーから投入した新しいギター(SUPRO社のCoronadoトレモロ・アーム付きブラック・モデル)の太くて包まれる様な印象のある特色的なサウンドが、この曲の空気感を決定づけたのではないかと思う。アームを使ったプレイで生み出されたパートはデイヴィッドがこの曲の時に、メインギターのストラトキャスターから持ち替えて歌った理由がよく分かるものだ。またテリーのコーラス・ワークは本作でも大きな演出効果になっているが、前作のオーケストレーションがもたらしていたものを、その声の響きがカバーしている様な趣がこの曲には感じられる。メロディアスで繊細な曲調は、もしシネラマや前作『TAKE FOUNTAIN』の時だったら先行シングルになって然るべきものだったろう。

4. Soup
ステージではこれもまた初登場は2006年秋のツアー。曲調は軽やかなアルペイジオから始まり、途中テンポアップする所も効果的なポップな印象を残す。デイヴィッド・ゲッジと新加入のドラマー、グラエム・ラムゼイとの共作だが、これもまたTWP初期のレパートリーに若手のメンバーが触発されて生まれたものではないだろうか。またクリスの発言によると、今回のレコーディングにおいて彼は自分のギター以外にもスティーヴ・アルビニが作製したアルミニウム・ボディーのハンドメイド・ギター(デイヴィッドの言葉を借りれば“スティーヴのミステリアスなアルミ・ギター”)を借り受けてプレイしているが、おそらくこの曲の中盤で左チャンネルから聞こえる金属的な音感のギター・リフがまさにそのギターで奏でられたものではないだろうか。というのも、この響きはSHELLACの近作で度々聞けるものによく似ているからだ。
ちなみに元々ツアーでの披露時には歌詞の一節そのまま"No Soup for You"という、ほとんどジョークみたいなタイトルだったが、このフレーズ自体は北米では懐かしいギャグ。1989年から米NBCで放送されていた、NYを舞台にしたシチュエーション・コメディもののTVシリーズ『Seinfeld(邦題“となりのサインフェルド”)』で特にファンに人気の高いデリを舞台にしたエピソード「No Soup for You」というものがあり、その回の放送以降に大流行りしたものだそうだ(参考映像。この撮影で使用されたのはマンハッタンに実在する人気のスープ屋さんSoup Kitchen Internationalで、余談にはなるがPrefab Sproutの1988年発表のアルバム『From Langley Park to Memphis』にはこの店名が歌われた名曲"The Venus of the Soup Kitchen"が収録されている。そう言えばヒット曲"Hey Manhattan!"も本作には収録されている。)。なので意味合い的には語意そのものというよりは、そのエピソードで使用されていた様な「貴様に売るスープはねえ!」=「おととい来やがれ!」みたいなテイストで、この歌詞の中でも一夜の情事にハマった主人公の女性の内なる声として使用されていて、しかもこの「Soup」という言葉にデイヴィッド・ゲッジ作品ならではの若干エロティックな意味合いを持たせる使い方にもなっている。
いずれにせよ、こういう北米の人以外には馴染みのないフレーズを使用しているあたりも、このアルバムの奇妙にアメリカ的な要素の1つだろう。

この曲のエンディングに突如、再生スピードを遅くした様な重たいベースが唸り声を上げ、ノイジーなギターが重なって不気味な雰囲気を醸し出すインタールードへと展開。次曲へのブリッジとしていい役割を果たしている。

5. Palisades
本作における最初のクライマックス。タイトルのパリセードとはLAの北側の海沿いにある街Pacific Palisadesの事だろうし、フランスもの好きのデイヴィッド・ゲッジの趣味を知る者ならばソフィー・マルソーの『パシフィック通り』の原題を連想するかもしれない。しかし、サビの部分でありったけの恨み節で「you don't love me anymore」と歌われ、後半でバンド全体がスパークしていくその構成は、TWPの曲が骨の髄まで染み込んだ人間にとってはどうしたって17年前の『SEAMONSTERS』収録の"Dalliance"や"Lovenest"を聴いている時のあの感覚を思い出してしまう。個人的に本作で最も総毛立った1曲。こういうTWPというバンドにしかないスリルを味わせてくれるナンバーこそ、ファンが待ちに待ったものではないだろうか。デイヴィッド・ゲッジとテリー・ディ・カストロの共作。

6. The Trouble With Men
ここで場面転換。再び"Spider-man On Hollywood"のエンディングで登場したシークエンスにも似た、ソフト・マレットを使ったグラエム・ラムゼイのプレイが聴こえてくる。リヴァーブを効かせたツイン・ボーカルを活かしたミステリアスな冒頭から引き込まれるナンバーだ。デイヴィッド・ゲッジとグラエム・ラムゼイの共作。ちなみに元々のタイトルは歌詞の一節にもある「Which Brings Me to You」だった。余談だが、グラエムの証言によれば、このソフト・マレットを使ったパートの録音の際に、エンジニアのスティーヴ・アルビニに対してマイクの位置を指示してまでその音色に拘ったという事なのだが、相手がドラムの録音に関しては定評のあるあのスティーヴ・アルビニだけに、その行為は言ってみれば“釈迦に説法”だという訳で、他のメンバーが思わず大爆笑したという事だ(ちなみにスティーヴは当然の如くグラエムの意思を尊重し、職務を遂行したそうだ)。ある意味、怖い者知らずと言ってもいいが、その拘りは見事に実を結んでいる。
なお、ヴァイナル盤ではここまでがA面になる。

7. Model, Actress, Whatever...
発売前から話題を呼んでいた歌詞(大筋を言うと、PCの画面に写るJPEG写真を見つめながら疑似恋愛の妄想に耽る男の歌。つまりその見つめている写真の女性がモデルだろうが女優だろうがどんな職業であっても構わない、というタイトルになるだろうか。)の奇妙なユーモアはいかにもデイヴィッド・ゲッジらしい。2007年3月の英ヨークシャーでのショート・ツアーで初登場したデイヴィッド・ゲッジとテリー・ディ・カストロの共作曲。曲調はそのテリーと共作した初の楽曲であったCINERAMAの『TORINO』収録曲"Tie Me Up"や名曲"Superman"を思い出させる6/8拍子のワルツ。基本構成はライヴでの披露時と変わっていないが、新たに加わったメロトロンとキーボードのバッキング・パートがいいアクセントになっている。CINERAMA時代のアプローチだったら間違いなくここにフルートやオーケストレーションが入っていただろう。

8. Don't Take Me Home Until I'm Drunk
昨年10月の「GB20ツアー」で初登場した新曲。本来は「Don't Take Me Home Until I'm Very Drunk」という風に「very」がタイトルと歌詞の一節に入っていたがそれが省かれて、替わりに新たな一節「...very drunk, indeed(もちろんすごい酔っぱらってるんだけどね)」が加わるという、これまた独特なユーモアを感じさせる改変が為された。ライヴでの披露時から、それほど強い印象を残す楽曲では無かったが(前後の曲の配置があの"Brassneck"とCINERAMA初期の名曲"King's Cross"であったのだから尚更だ)、シンプルなアンサンブルだからこそ今のTWPが持つバンド・サウンドの間合いの気持ち良さが際立っている。むしろTWPのバンド・サウンドとは元来、そういう所が魅力でもあったのだと言う事を改めて思い出させてくれる。デイヴィッド・ゲッジとクリス・マッコンヴィルの共作。ちなみに、30秒過ぎで入って来る"Good Morning"の声は、実は海外版のたまごっちのキャラクターが喋る音のサンプリングだそうだ。
【2008/9/16】Tim Middlewick監督によるPVも制作された

9. The Thing I Like Best About Him Is His Girlfriend [Santa Monica And La Brea Version]
本作からの先行シングルとなった「The Thing」のアルバム・ヴァージョン。前半に新たに作られた約2分のイントロダクション的な役割を果たすインストが付け加えられたが、2本のエレクトリック・ギターが激しいコード・ストロークを奏でる場面は強力。そこへサンプリングされたカウントダウンがオーバーラップし、本編がスタートするこの構成は実に格好いい。インストゥルメンタルをインタールード的に使用していく手法はシネラマ時代にも、もしくは旧TWPの『Saturnalia』あたりでも用いられていたが、その手法を前作『TAKE FOUNTAIN』で極め、本作ではこの「The Thing...」を筆頭に、もはやアルバムを構成する上での必要不可欠な要素として見事な流れを作り出している。楽曲自体も『Mini』収録の"Convertible"から始まった男性と女性のそれぞれの視点からストーリーが綴られていくスタイルのデュエット・ソングの1つの完成型を示したもの。シングル・ヴァージョンは別のエンジニアの手によるミックスという事もあって、この曲のポップな側面が引き出されていて、それはそれでこのドライヴィング・チューンの良さとして素直に評価出来るものなのでぜひお聴き頂きたいものだが(くどいようだが、ダウンロード限定販売なのは心底惜しい)、こちらのヴァージョンもイントロダクションからの流れも含め本作の中で一際輝く、後半部のハイライトとして堂々とした存在感を示している様に思う。ちなみにツアーでの初披露は2007年3月の英ヨークシャーでのショート・ツアー。当時は"The Thing I Like Most About You Is Your Girlfriend"と紹介されており、デイヴィッド・ゲッジ自らが「いかにもゲッジっぽい感じだろ?」とこの曲名の事を説明していたが(あとThe Specialsに似た様なタイトルの曲「What I Like Most About You Is Your Girlfriend」があった事も)、最終的にこのタイトルに変更。いずれにせよ長過ぎるタイトルのため、既に「The Thing」の略称で親しまれており、バンド側もこの略称で呼んでいる。同名のキャラが『ファンタスティック・フォー』に登場(かつて「Silver Shorts」のピクチャー・スリーブにも用いられた)する事もあり、アメコミ好きのデイヴィッドの狙いなのか?ちなみにアルバム・ヴァージョンのヴァージョン名にある2つの固有名称はそれぞれLA周辺の通りの名前。

ちなみにアルバム発売後しばらくしてからPVも制作されているが、e-mailでの往復書簡的な歌詞の世界に沿ったファニーな仕上がりになっている。

10. Boo Boo
本作における最長尺のナンバーであり、発売後海外のファンの間では最も人気を集めている1曲。要するに、デイヴィッド・ゲッジ作品のスタイルを大きく二分する、"Kennedy"の流れを汲む速いテンポのアッパーなビート・ソング・タイプと、"Bewitched"のゆっくり目のテンポでスケールの大きな世界を聞かせるタイプがあり、これは昔からファンからの支持が高い後者タイプの系譜にある1曲と言える。これまでのTWP/CINERAMA作品にはあまり無かったタイプのリフ構成を持つその曲調と、徐々に熱気を帯びて行くバンドの演奏の調和が見事で、ここでアルバムは文字通りの意味でクライマックスを迎える事になる。先の「The Thing...」とこの曲はデイヴィッド・ゲッジとテリー・ディ・カストロの共作。テリーは本作の大半を占める5曲を共作。さらには最終的な本作の曲順を決定している。シネラマ時代の1999年加入以降、彼女がここまでフィーチャーされた作品は初めてで、同じLA周辺に暮らしているという事もあってデイヴィッドにとっては新たな音楽的な右腕として無くてはならない存在になった感がある。

11. Swingers
締めくくりはそのテリーが初めてリード・ヴォーカルを取った1曲で、唯一セミ・アクースティック編成でのアレンジが施されているナンバーでもある。ダブルベースの音が聞けるTWP/CINERAMAの曲はおそらくこれが初めてだろう。前述した"I Lost the Monkey"同様、脱退前のサイモン・クリーヴとデイヴィッド・ゲッジの共作であり、本作中では最も古いレパートリーになるのではないだろうか。ちなみにタイトルにある"swinger"は「性に奔放な人」。これが複数形になると、70年代半ばの北米の一部地域で盛り上がったフリーセックスに興じる人達のことを指す意味にもなるのだという。このタイトルから、ちょうど今北米で放送されているその時代を舞台にしたSwingersを描いたドラマ『Swingtown』に捧げたもの、という見方も一部ではある様だが、実際の所その由来はL.A.にあるデイヴィッドお気に入りの同名のダイナーから来ているようでもあり、そこで耳にした人々の会話からこのストーリーが産まれたという推察も成り立つかもしれない。いずれにしても、男性の視点から書かれているようにも思えるストーリーをテリーが歌う事で全く違う図式が出来上がってしまう所にこの曲の面みがあるわけで、おそらくは、デイヴィッドが好みそうなドラマ『Lの世界』的なものを狙ったんだろう。ちなみに、同ドラマの舞台はデイヴィッド・ゲッジが拠点としていたウェスト・ハリウッドである。
楽曲の構造的には以前旧TWPでも『Mini』収録の"Sports Car"で同じ様に当時の女性ベーシストだったジェイン・ロッキーがリード・ヴォーカルを取った別アレンジのヴァージョンがシングルのカップリングとして発表された事があり、まさにその試みの発展型だと言っていい。左のチャンネルに入って来るグランド・ピアノの弦で作られたというノイズが一体何を意味しているのか?(僕には映画館のフィルムの空リールが回る音に聞こえる)不思議な余韻を残してこの傑作は幕を閉じる。

最後に、iTunes Store版限定で収録されたボーナス・トラックについても触れておきたい。

12. Back for Good (iTunes Store Exclusive)
一昨年の8月にBBC Radio 1のオール・カヴァー・セッションで披露したTake Thatの"Back for Good"のカヴァー。オリジナルは1995年の大ヒットで、このボーイズ・グループにとっての全米での最大のヒット曲。TWP版は一昨年のカヴァー・セッションの時とほぼ寸分違わぬアレンジで、艶っぽいエレクトリック・ギターの伴奏で歌われる前半の穏やかな雰囲気から一転、後半でTerry de Castroが歌う場面から始まるノイジーな昂りとのコントラストが素晴らしい。流石はカヴァー・ソングは大得意のTWPとデイヴィッド・ゲッジらしい仕上がり。それにしても、こういうカヴァーの時には毎度の事になってしまうのだが、デイヴィッドが歌うと同じ歌詞でも全く違う、淫靡で意味深な内容の歌に聞こえてくるから不思議だ。


なお、今回のレコーディング・セッションで録音された楽曲にはここに収録された以外に、アルバムへの収録が有力視されていたツアーでのレパートリー"Hulk Loves Betty"、"Drink You, Eat You"の他、"Twenty Jackies"、"Pinch Twist Pull Release"、"Peek-a-boo"の5曲があり、これらが今後どの様な形で発表されていく事になるのか?気になっていたのだが、"Peek-a-boo"以外は同年10月の超限定生産のEP BOX『How The West Was Won』に収録された。また、噂ではこのセッションが全て収録しおわった後に、GB20ツアーでの勢いそのままに『George Best』をまるまるスタジオ・ライヴで録音したと言われており、いつか発表される事を期待して止まない。

歌詞対訳

  原詞は公式サイトに掲載されています。

  >> 歌詞対訳 [2008/8/1掲載]

外部リンク  

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レーベルVibrantManifesto
フォーマット     CD      VINYL(限定)      CD     
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(last modified : 20th November, 2008 / first published : 7th May, 2008)

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