INTERVIEWS

David Gedge - July 2006
interviewed by Greg Trout for MagnaPhone,
an online journal based in Philadelphia.
原文はこちら

2004年9月、CINERAMAからTWPへの改名を正式に表明後、ほぼ2年近くツアーの行く先々でメディアからの取材を受けてきたデイヴィッド・ゲッジですが、さすがに一段落したのか、それとも“すわ再結成か!?”と喜び勇んだプレス連中が真実と経緯を知って以降関心が無くなり、記事にしにくいからともう現在のTWPをまともにフォローする気が失せたのか、最近でも引き続きツアーは続けられてきてはいましたし、それなりに作品のリリースも続いているものの、記事になる機会はほとんどありませんでした。で、2006年も半分を過ぎてからようやく届けられた本格的な長編インタビューが今回ご紹介するこのMagnaPhoneでのe-mailインタビュー、という事になります。
取材時期は2006年7月で、おそらくはその時期のU.K.ショート・ツアーの前後に行われたもの。コメント内容から同年7/19に収録されたBBC Radio 1のためのカヴァー・セッションを収録する以前である事は確かです(スタジオからのe-mailという事で、そのカヴァー・セッションのためのリハーサルを行っていた7/14〜18の練習スタジオ内とも考えられます)。とにかく、「CINERAMAからTWPへのフェイズの移行」などのもはや周知の事実について改めて問い質す様な愚問やJOHN PEELの死去について訊く様な野暮な質問などは全くない、実に的を射た切り口で、TWPならびにデイヴィッド・ゲッジへの敬愛の念が伝わってくる良質なインタビューです。実際デイヴィッド・ゲッジのリリシストとしての側面と楽曲の制作プロセスに迫ろうと頑張っているのに好感を持ちました。それにしても「みんなメロディーを疎かにしすぎだと思うよ。本当に、基本中の基本だよ....言葉と曲。それがポップ・ミュージックの全てなんだ。だから僕はその事に十分な時間を掛ける。」という下りは当たり前の様でいて、デイヴィッド・ゲッジというアーティストの基本的な姿勢を言い表した蓋し名言だと思います。その他にも最新コンピレーション『Search for Paradise』のPVに関する裏話や最近お気に入りのアーティストやアルバムの話なども「なるほど!」と思わせるもので、個人的には面白かったポイントです。[last modified : 22nd September, 2006 /Japanese translation by YOSHI@TWP-CINERAMA]


1987年以来*1、THE WEDDING PRESENT (以下TWP)は強烈で、洗練された、メロディックなポップ・ミュージックを作り続けている。耳障りなギター・サウンドを配しながら、ジョン・アップダイクが最後にウサギシリーズ*2で書いて以来お目に掛かった事はない男女の関係にはつきものの耐え難い苦痛を解剖した歌詞を持つその音楽は、英音楽シーンにとって欠くことの出来ない存在だ。今回最新のシングル/ヴィデオ・コレクション『Search For Paradise』発表を機に、フロントマン/リリシストのデイヴィッド・ゲッジにわざわざスタジオからe-mailを介してインタビューに応じてくれた。以下、彼が根気強く答えてくれた回答の一部始終である。


グレッグ・トラウト(以下T):
あなたの言葉の使い方は実に簡潔ですよね。数少ない言葉で実に多くの事を物語っている。どのような鍛錬を経てこの技術を発展させてきたのでしょうか?僕は時折、あなたの歌詞を詩的なレイモンド・カーヴァー*3のようだと表現したことがあるんです。
デイヴィッド・ゲッジ(以下DG):たぶん僕はどっちつかずなのが嫌なだけなんだよ!歌詞を書いている時って、余計なものを削ぎ落としていく作業なものでね。だから詩的な比喩表現や描写を取り除いたあとは、そこには本当の骨格だけが残る。


T:
僕の地元、フィラデルフィアであなたたちのライヴを2回観ました。1つは今はなきNick's Roast BeefでのTWP、そしてもう1つはベル&セバスチャンがキャンセルした夜にやったCINERAMAです。何かフィラデルフィアについての印象はありますか?
DG:え〜っと...実際の所、あまりフィラデルフィアでは良い時間を過ごせた記憶が無くてね...何故かは分からないよ!最後にCINERAMAでプレイした時には、僕らは酔っぱらった前座のバンドが野次り倒してきたせいで、演奏そのものに悪い影響があった。後で謝られたけどね。で、会場の外では朝日が差し始めた歩道の上に腐った蟹のケースが放置されていたせいでヒドい悪臭が漂っていたしね。その前のツアーではフィラデルフィア出身のエンジニアと一緒に回っていたんだけど、奴は僕らのマイクの1つを盗んだんだよ!まあこれは町のせいじゃないけども...とにかく、あまりツイてはいないようだね!


T:
バンドの多くがステージに上がらないのでは?なんていう噂が駆け回っている観客の前で演奏するのはどんな気分でした?(例のベル&セバスチャンがドタキャンした1998年のフィラデルフィア公演の事です)。どっちのパフォーマンスも僕は楽しみましたけどね。
DG:どうもありがとう。あの日、僕らにしてみればとにかく欲求不満がたまってね。だってCINERAMA2回目のコンサートで、バンドがあの夜の演奏にあまり満足していなかったのを覚えているよ。オーディエンスは素晴らしかったんだけど...だから申し訳なかったね。ベル&セバスチャンは明らかにサウンドチェックに時間を取りすぎてて、でいきなりメンバーの一人が気分が悪いからって出ていっちゃった。でもたくさんのミュージシャンがステージでスタンバイしていたし、何かしら説明してショーを出来る状況だとは思ったけどね。何というか、何様のつもりなんだよ、って感じじゃないかな?


T:
あなたの曲は何かしらの男女関係を歌った“リレイションシップ・ソング”で、しかも失恋やそれにまつわる口論についてのものが大半ですよね。大抵の人が一生のうちに体験する以上のサンプルがあります。でもあなた自身はそのキャリアを通じて特定のパートナーとの一対一の恋愛関係にあったと思います。一体それらの題材は何処から導き出されるんでしょうか?
DG:たぶんに想像力旺盛だからじゃないかな?!ストーリーの大半は何らかの形で実話が含まれている。自叙伝形式のものもあれば、ある特定の状況を想像して書いたものもある。身の回りのどんなものからでもインスピレーションは受けているよ...電車の中で他の人の会話に耳をそばだててみたりとかね...特にお互いが声を荒げて言い争っている様な時はね。


T:
あなたの素晴らしい歌詞以上に、フックのあるメロディーを書く才覚と、そのギターで同じ感情を伝達する才能があると思います。何かコメントは?
DG:みんなメロディーを疎かにしすぎだと思うよ。本当に、基本中の基本だよ....言葉と曲。それがポップ・ミュージックの全てなんだ。だから君がその事に取り組むのなら、この2つについて本当に最善を尽くせたかどうかを確認するべきだ。僕が書くときはとにかくその事に長い時間を費やす。僕は別に偉大なギターリストじゃないし...僕にとってはギターが一番“クールな”楽器というだけであってね。今だって弾くのには大変な労力が要る。


T:
過去何年も、あなたの曲を聴いていて、ある曲にはまり込み過ぎて、とにかくその曲ばかりを繰り返し聴いてしまう事があるんです。昔なら"Kennedy"や"I'm Not Always So Stupid"に"Wow"、"Your Charms、今なら"Bad Thing"です。曲を書いている時に、その曲が誰かの心を強烈に捕らえて離さない様な可能性があると、思う事はありますか?
DG:へへ!いやいや、曲を書いている時はそんな事全く思いもしないよ。唯一考えるのはその曲をステージで演奏する時、僕の感情を伝えられる最上の方法はなんだろう、という事かな。でも、そんな深くも考えないかな?君が言ってくれたような体験は後になって聞かされるし、その衝撃を教えてもらえた事に感謝したくなるくらいでね。でも、どう考えてもちょっと褒めすぎだけどね!


T:
最新コレクションの『Search for Paradise』のヴィデオ、とても楽しみました。制作時間はどのくらいかかりました?
DG:実際のところ、必要最低限だったね。ディレクターの制作コンセプトが上手く行っていると思えれば、僕は出しゃばらないようにしていたよ。『Search for Paradise』のヴィデオは全て一人の監督が作っている。Tim Middlewickだ。僕は彼の仕事は全て好きだよ。僕は少しサジェスチョンしたくらいだった。何よりも助かったのは、彼が契約の欲しいフィルム・メーカーというよりは、Wedding Presentの大ファンとして来てくれた事で、だからこのグループがどんなグループなのか前もってよく理解していたんだ。


T:
ご自身の男女関係からくる私的で自叙伝的な曲があの主演女優を選ぶ基準になった、という事は?
DG:「Interstate 5」の主演女優は、実際にはTim (Middlewick)のガールフレンドなんだ。彼女は昔走る競技をやっていてね。本当に良くやってくれたよ...ナイト・ドレス1枚だけでずっと走り回っていたんだから。罪悪感を覚えたね!「I'm From Further North Than You」の制作では僕は何人もの女優の写真を見て、履歴書を読んで、彼女たちの統計資料を考慮しなくちゃいけない、ちょっと現実離れしたポジションにいたんだよね。今回の場合スクリーン映えするかどうかはさほど重要じゃなくて、そのヴィデオの中でその人が上手くハマるかどうかが重要だった。なんだかミス・ワールドの審査員か何かの気分だったよ。「ん〜、この子の髪型はあまり好きじゃないな。こっちはちょいと若すぎる...」とか何とかみたいにね。


T:
あなたは常にTWPとCINERAMA、両バンドのファンに全ての作品が行き渡るようにコンピレーションをマメに作られますよね?
DG:ファンの要望はよく理解しているよ...だから全てが入手できるようにしている。ファンから「まったく、こっちじゃあんたらのレコードが手に入らないんだよ!」なんて言われたくないからね。


T:
それにレコードとシングルをリリースするのに実に独特なスタンスを持っていますよね。何がそこまであなたにさせるんでしょうか?レコードを買う1ファンとして何か欲求不満を募らせる体験があったとか?
DG:まあ、もし何かをリリースするとして、それは可能な限り興味を惹くような形で出したいと思うだけでね。僕はポップ・カルチャーの大ファンで、その中で演奏して廻るのが好きだから。アルバムとツアーに明け暮れる生活に束縛されるのは簡単な事だよ。


T:
どこか北米の都市で演奏するのが好きな場所、もしくは演奏してみたい場所は?
DG:まだ行った事が無いのは3都市しかないから、どこかの段階で制覇しないとね!そのためにはプロモーターを探さなくちゃいけないかな。アラスカとハワイ、それにカナダに隣接するメーンだね。


T:
共演してみたい人はいますか?
DG:今だったらカナダのStarsとBroken Social Sceneで歌っている可愛らしいAmy Millanと共演してみたいね。ドイツでのツアーの時に出会ったんだ。あんなに繊細な声を持っていて、スウィートなものからハスキーなものまで、何度も繰り返し繰り返し聴きたくなる声だ。君が僕らの「Bad Things」に対して思うような感じだね!


T:
次の計画はなんですか?
DG:わからないよ。僕のインタビューでの常套回答だけど「僕は計画しないタチなんだ...計画は建築家のためのものだよ!」。でも、それはある種事実だよ。まあ実際には、考え方も変わったかな。これからいくつかコンサートとレディオ・セッションをやらなくちゃいけない。僕自身の野望としては、赤ワインのグラス片手にどこか暖かいビーチで過ごしたいね。


T:
あなたには明確なファッション・スタイルがありますよね。長袖のシャツにストレイトのジーンズ、それにブーツ。大体は黒で統一されている。これって計算されたものなんですか?僕みたいに、何か着心地の良いものを見つけるとそればかり着てしまって、あまり他の事を心配しなくて済むからですか?
DG:前の英国ツアーは観ておくべきだったね、君...だって僕は全身白ずくめだったんだから!下着も含めてね。ロンドンでのライヴの時、誰かにまるでクリケットの選手みたいだ!って言われたけどね。


T:
小説を書いてみたいと思ったことは?例えばグレアム・パーカーみたいなのとかXTCみたいに曲の裏話について書いたものとか(僕は読んでみたいですけど)。
DG:よく考えるけどね...今のところの問題は時間がないという事だね。僕の全ての時間はTWPとScopitonesのために注がれている。他のプロジェクトを始めるとなると、間違いなくバンドが片手間になってしまう。自分の人生に今やっている以上の事は望んでいないしね!


T:
一番最近買ったレコードは?
DG:実際には買ってはないんだけど、最近送ってもらったレコードでThe Victorian English Gentlemens Clubのデビュー・アルバムは素晴らしかった...名前とは裏腹に、ウェールズのバンドなんだけどね。


T:
一番最近聴いたレコードは?
DG:BBC Radio 1のためにレディオ・セッションを録音する所なんだけど、それは全てカヴァー・ソングになる予定でね。だからいろんな人のレコードを聴いているところだよ。シラ・ブラック、ザ・ホリーズ、ブロンディー、ミニー・リパートン、テイク・ザット、それに、あのお気に入りのスターズもね!


T:
人がThe Wedding Presentの名前を聞いた時、The Birthday Partyを連想してしまう事を未だに気にしていますか?*4(偶然にも、これを打っている僕は今Birthday PartyのTシャツを着ています)
DG:ないない。バンドにThe Wedding Presentって名前を付けてからは、別にもう気にしなくなったよ...


T:
ザ・キンクスで一番好きなレコードは?
DG:ローラ」だ。素晴らしい歌詞だよね!


T:
何かお気に入りのTV番組はありますか?
DG:TWPでこの18ヶ月くらいずっとツアーに出ていたから、かなりの番組を見逃してしまってね...『Dr. Who』の新シリーズや『Lost』『Desperate Housewives(デスパレートな妻たち)』。だからいくつかDVDに落としているところ。今『24』の最初の3シーズンに夢中なんだけど、今年主演のキーファー・サザーランドと脚本家の一人に会えたのは嬉しかったな。
あと、これを言うのは恥ずかしいんだけど、『Big Brother*5も大好きなんだよね。


注釈:
*1:言うまでもなくデビュー年は1985年なので、明らかな事実誤認。
*2:John Hoyer Updike(1932〜)米ペンシルヴァニア州出身の作家/詩人。ここでも引用されている四半世紀以上を費やして書き続けたウサギ四部作のシリーズであまりにも有名。2006年に最新作"Terrorist"を上梓。
*3:Raymond Carver(1939〜1988)米オレゴン州クラッツカニー出身の短編小説作家/詩人。村上春樹の翻訳によって日本でも広く知られている。代表作に『たのむから静かにしてくれ』『愛について語るときに我々の語ること』など。
*4:THE WEDDING PRESENTのバンド名を考えるにあたってデイヴィッドがファンだったTHE BIRTHDAY PARTYの名前に倣ったというエピソードがある。他にやはりデイヴィッドがファンのアメコミのバットマンの中に「The Wedding Present」というエピソード名がありそこから取られたなど、実際の所その名前の由来には複数の説がある。
*5:2001年に始まったいわゆる“リアリティもの”のTVシリーズで、一般の男女10人が特設の巨大な家の中で外界との接触を一切断って共同生活を送る様子をカメラで常時撮影し、毎晩そのダイジェストを放映。毎週1人ずつグループ内と視聴者からの投票で脱落者を決めていき、最後に残ったものが賞金を獲得できる...って書くと、どこかで見たことありますよね、こういう番組(笑)。イギリスでは第7シリーズまで続いている人気シリーズ。他にもイタリアやドイツ、果てはタイなど、各国版もある。確かに、ちょっとこの番組は好きだと公言するのは恥ずかしさがあるかも。

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